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次の瞬間。
障子の向こう側に、か細い火の光によって照らされたくっきりとした黒い影を、紫苑は認めてしまった。
寿々ではない。着物姿の男が正座をし、頭を下げている。
紫苑は頭が真っ白になった。この者こそあの無礼者に違いない。そう確信したものの恐怖で言葉が出ない。辛うじて手に持った蝋燭を落とさなかったことが不思議なくらいである。
静かな城内の一室の内と外とに、さらに真空のような静けさと緊張がほとばしる。男は顔をゆっくりとあげると自ら障子をおとなしく開け始めた。
我を殺しにきたのだと悟った紫苑は、覚悟を決め、殺される相手の顔をこの目に焼き付けておこうと、恐怖心を押し殺しながらじっと目を見開いて男を見据えた。
障子は空気の呼吸のようにゆっくりと開いていく。
顔には何も軍備を身に着けていないようである。
紫苑は男の顔をはっきりと見た。
男も紫苑をじっと見据えていた。
二つの視線が深い緊張の中で結びついたその瞬間、最後の蝋燭の火が無言でぱっと闇に消えた。
目の前は暗黒の闇に包まれた。
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