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「姫君、お休みのところ失礼いたします。」
また一滴、と滴る蝋燭が今にも消えそうなことに気がつき、そろそろ寝どこへつこうと、読んでいた詩集を閉じたときだった。
障子の向こう側に長年使いの役目を果たしてきた寿々(すず)が少しばかり息切れをしながらそれでも落ち着いた様子を装い、はっきりとした口調でこう言ったので、紫苑はゆっくりと声のするほうへ顔をあげた。
「寿々ね。どうかしたの?」
「はい。今しがた姫君にお目にかかりたいと切に願う無礼者が表に現れました。なんとか我々で追い払うことは致しましたが、夜も更けるこの時、姫君に如何なる危険があってはなりませぬ。何卒お気を遣っていただきたく、伝えに参ったのであります。」
寿々はやや早口になりながらこう言った。
「ありがとう。下がってよいわ。」
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