夏の随想

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「手術なんかしたって意味ないじゃん!どうせ私は死ぬんだよ!もうイヤなのよ!にんじんみたいな未来を必死で食べようとするなんて!大人しくこのまま死なせてよ!」 チカちゃん!と看護師が必至の形相で女の子を呼んだ。彼女もまた不治の病に侵されているのだろうか。しかし僕よりも健康そうだ。恐らく彼女は僕よりも長く生きるだろう。彼女は漠然と死を思っているに過ぎないのだ。僕のように毎日毎日自分の寿命をカウントダウンしてはいないだろう。看護師は女の子の両肩を掴み女の子をなだめている。少し前は僕もあの女の子みたいなことを喚いていたものだ。今から思えばあの頃まだ僕には希望があったのだ。今は希望などひとかけらもない。だから車椅子の女の子さえいやらしいぐらいに生き生きとしていてそれが疎ましかった。僕はこの場所にいるのが耐えられなくなり看護師に断って療養所に戻る事になった。
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