夏の随想

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夜になるとまた恐怖がやってくる。それは喉元を締め付け、胸を圧迫し息すら止めてしまう。誰でも眠りながら死ぬのが理想だと思う。しかし、僕はそんな風に死ねるのか。こうして震え、のたうちまわりながらも死は体中にこびりつき規則的に恐怖を与えるのだ。とうとうたまらなくなった僕は病室から抜け出し、海岸を歩くことにした。 夜の海岸相変わらず不気味だった。赤い月が闇夜に輝きその周りを星の一群が生き物のように蠢いている。僕にはその光景がなんだかゴッホの描く一連の風景がを思わせる。海岸の夜景がこんな風に見えるのは僕だけなのか、それとも死を間近に控えた人間が見る末期の光景なのだろうか。しかし病室に閉じ込められているよりこうして海岸を歩いていた方がマシだった。出来ればこうして真夜中の闇の中で眠るように死んでいきたいものだ。 遠くの方で魚だろうか、何かが水を蹴るような音がした。僕はなんとなく音のする方を見た。するとそこに人影が見えた。女性だろうか。その人影はだんだん海岸から海に入っていく。僕は昼の車椅子の女の子を思い出した。僕はいてもたってもいられず医者の禁を破って出来る限り声を張り上げて叫んだ。
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