夏の随想

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潮風が顔に当たった。僕は背を伸ばして潮風を吸い込むとまた歩き出した。僕は今海のそばの療養所にいる。もう決定的となった人生の終わりをここで過ごすために。 僕を散歩に連れている看護師の女性が僕に言う。「今日はいい天気ですね」本来なら素直に笑顔でうなすぐべきだったのだろうが、死を前にした僕は看護師の笑顔さえ嫌味に思える。僕は看護師に薄笑いを見せながら無言で歩き出した。 僕が死ぬというのになんて世界はこうも平和なのか。僕が死んでも世界は変わらないのだろうか。世界の何千兆分の1以下の存在である僕が死んだところで世界は変わらないのだろう。ああ!世界なんか滅んでしまえ!世界の終わりを見ながら安らかに息絶えたらどんなに素晴らしいだろう。 そう僕が鬱々とした気分で歩いていると前から車椅子で見知らぬ女の子が現れた。
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