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占い師編(1)
1日目・昼
バイト募集!
内容:宝探し
給与:日給100万円(ただし成功した場合に限る)
そんな怪しげな広告を目にし、なにがなんでもお金が欲しかった俺は一も二もなく応募した。
そしてその結果、俺は今こうして船に揺られている。
見回したところ、船には11人くらいが乗っているようだ。皆、俺と同じようにバイトなんだろうか。
「やあ!君、なんて名前?俺のことはヤスって呼んでくれ」
ぼーっと船の内部を眺めていたら、隣の人に声をかけられた。人の良さそうな顔をしている。
「俺はシン。ヤスもバイトで来たのか?」
「ああ。宝物が見つかればすごい額がもらえるんだよな。一緒にがんばろう!」
「そうだな。お金、お金、金、金、カネカネカネカネ」
「おい、うるさいぞ貧乏人」
お金に頭を支配されそうになっていたら、前に座っていた人がぐるんと振り返って注意した。
「なんだよ失礼な。お前もどうせ貧乏人なんだろう?怪しげな高給アルバイトに応募してるくらいなんだから…」
俺がそういうと、前の人は呆れたようにため息をついた。
「馬鹿な。俺様のことを知らないのか?金なんて有り余るほどある。俺の目的は、あの島の宝だ。一目見たいと思って応募しただけだ」
「ね、前の人。俺たち君のこと知らないからさ、自己紹介しようよ!」
ヤスがその場をとりなすように言ってくれた。
「俺はヤス。で、こっちはシン。君は?」
「まさか本当に知らないとはな。俺はユキナリ。鴻池グループの御曹司だ」
鴻池グループ…
それなら俺も知っている。世界を股にかける大企業で、俺の勤め先だ。
まあ、俺は清掃のアルバイトなんだが。
「ね、ねえ、君たち、自己紹介してるの?」
後ろの席の人が、いかにもおそるおそるといった感じで話しかけてきた。
「そうだよ。せっかくこれから一緒に宝探しだし、仲良くなろうと思ってね。…そうだ。どうせならここにいるみんなで自己紹介タイムにしよっか!船の中って暇だよね」
ヤスが楽しそうに提案する。
こいつ、コミュ力の塊だ。
そんなこんなで自己紹介をすることになった。
まずはヤスからだ。
「俺はヤス。大学生で、旅行の資金集めのために来たんだ。よろしくな!」
次にユキナリ。
「俺はユキナリだ。鴻池グループの御曹司。貧乏人と群れる気はないからな」
そして後ろの人。
「ぼ、僕はリオ。迷惑かけないように、頑張ります」
元気な人。
「俺はコウタ!お宝、ゲットだぜー!…なんてな」
寡黙な人。
「俺は…アツシ。…以上」
礼儀正しい人。
「僕はヤマトだ!よろしく頼むぞ!」
ぼんやりしてる人。
「俺はオカだ。オカダじゃなくてオカだ」
声が大きい人。
「俺はカズシゲ!全部俺に任せとけー!」
ニヤニヤしてる人。
「トモヤと申します。みなさん仲良うしてください」
のんびりしてる人。
「俺はタカシだ。まあ、よろしくな」
そして俺。
「俺はシン。バイト代出なかったらごねまくるつもりだ」
そうこうしている間に船は島へと着いた。
俺たち11人はこの島で宝探しをすることになるらしい。
一応着替えは持ってきたが、何泊になるのかよくわからない。
そもそも雇い主の顔も名前も知らない。
騙されてないか不安になってくるけど、俺を騙したってない金は出せない。
船からおりると、2人の人間がいた。
背の高い方が話し始めた。
「こんにちは。俺は雇い主の村木だ。早速だが、この人狼島にはなんでも願いが叶う石が隠されているらしいんだ。君たちには、それを探して欲しい。こちらは、島の管理人さん」
管理人がいるのか。無人島の割には整備されてると思ったんだよな。
「管理人だ。この島で宝探しをする上で、守ってほしいことが2つある。この島は女子禁制。そして、恋愛禁止だ」
「恋愛禁止って…女子がいなかったら何も起こらないだろう」
誰かがつぶやいた。すると管理人は腕を組んだ。
「…わしも昔はそう思っとったよ」
「1、2、3、4…あれ?おかしいな」
村木が疑わしげな顔をしている。
「バイトは7人しか雇ってないんだけどな…」
その時、晴れていた空が急に暗くなり、雷鳴が轟いた。
「やっほー!村木くん、管理人さん、久しぶりだね!」
雷をバックにどこからともなく1人の男が現れた。
「お、お前…!なんでばれたんだ」
「僕にはなんでもわかるんだよ。村木くんの考えなんてお見通しさ」
なにやら村木がくやしがっている。
俺にはわけがわからない…。
「やあ諸君!僕の名前は透だよ。この島を愛でいっぱいにするためにやってきたんだ!」
…愛でいっぱい?
「村木くんは宝探しのために7人のバイトを雇ったらしいね。でも僕は、宝探しなんてどうでもいい。そこの管理人さんに嫌がらせするために、うちの組織の人間を3人送ったんだ」
管理人はムスッとしている。
「まったく。なぜそこまでして恋愛禁止のルールを破ろうとするんだ」
「毎年言ってるじゃん。嫌がらせだよ!君たちの中には、2人のゲイと1人の腐男子が紛れ込んでるよ。ゲイと腐男子同士には面識がないらしいけど、なんとかして3人で協力して全員を男に目覚めさせて、この島を愛で溢れる島にする予定さ」
「男に目覚めさせるって、どうやるんだ…」
俺は思わず聞いてしまった。
透はにこにこしながら答える。
「それはもう、体に教え込むしかないよね。ゲイ2人は相談して、夜になったら一人ずつノンケを襲うつもりだよ」
「おい、ちょっと待て…」
村木が口を挟んだ。
「組織の人間は3人なのか?俺のバイトは7人だから、このままだと1人余るけど、もしかして…」
パラパラパラ…
上空からヘリコプターの音が聞こえてきた。
「みなさん、遅れてごめんなさーい!失礼しますよっ」
低空飛行するヘリコプターから、ひょいっと女の人が飛び降りた。
…あれ?女子禁制??
「毎年恒例のゲイの乱交パーティの会場はここですね!楽しみですわ」
女の人は恐ろしい単語を口にしつつお辞儀した。
「わたしは洋子。BL大好き腐女子でーす」
「おい、ここは女子禁制だと言っとるだろう。出てってもらおうか」
管理人は怒って地団駄を踏んでいる。
「ふふふっ、わかりました。その中に1人だけ、わたしの腐女子友達を男装させて潜り込ませてますから。乱交パーティの模様はしっかり伝えてもらいますわ。それではっ」
洋子は再びヘリコプターに乗り、帰っていった。
「じゃ、僕も帰るね。愛よ永遠なれ〜」
透はどこへでもなく消えていった。
「…おい村木。自分のバイト以外は帰らせてくれんか」
管理人がじろっと村木をにらむ。
「いやー、それが管理人さん。実は俺、どの子が自分のバイトなのか把握してないんだよね。どうかいつものようにこのまま宝探しさせてくれよ」
「いや、今年という今年はもう許さん。お前ら3人のせいでこの島はハッテン場のようにされてるじゃないか。恋愛禁止だぞ。女子禁制だぞ。リア充なんて大っ嫌いだからなコラ」
この人ら、こんなやりとり毎年やってるのか?
で、毎年男に目覚めさせられてるってことか?
帰りたい。いやでもバイト代。
「まあまあ管理人さん。俺もちょっとは考えてきたんです。ゲイと腐女子を全員追い出せたら宝探しはそのままさせてください」
「そんなの、どうやってやるんだ?誰なのかはわからないのに」
「透は、一晩に1人襲わせると言ってました。だからこちらも、昼間のうちに話し合って、ゲイか腐女子と思しき人を1人追い出すようにするんです。…まあ、俺は用事があるので参加できませんが」
「思しきって…そんなのわかるわけないだろう?こいつらは初対面なんだ」
「まあまあ、見ててください」
そう言って村木は俺たち11人に1つずつパンを配った。
言われるがまま口にする。
これで食費の節約になるな。
「このパンの中には、薬入りのパンが3つあります。ゲイが食べた場合、とても不味く感じるけど、そういう人はいないみたいだね。よかった」
「なにがよかっただ。全員に薬を飲ませてゲイをあぶりだせ」
「残念、3錠しかありません。その薬には、それぞれ異なる効果があるんだ。占い師と、スパイと、ボディーガードさ」
「…どういう効果なんだ?」
「占い師は、夜のうちに1人についてその人がゲイかノンケか占うことができる。もし腐女子だった場合、占った時点で島から追い出すことができる。ただ、透が潜り込ませた腐男子については、ノンケという結果が出るだろうね。スパイは、前日の昼に島から追い出した人がノンケだったかゲイだったかを知ることができる。これも、腐男子についてはノンケと出るだろう。ボディーガードは、夜に誰か1人の貞操を守ることができる。ただし、ゲイの顔を見ることはできない。これら3つの能力をノンケのうちの3人に授けたから、上手く話し合えばゲイや腐女子を島から追い出せると思うよ」
管理人は、腕組みをしてうなった。
「うむ…それならいずれノンケだけにできるかもしれんな。わかった、宝探しを許そう。ただし、ゲイがいなくなった時点で腐女子を追い出せてなかったり、ゲイとノンケが同数になったら、もう全員出てってもらうからな」
「なんで同数?」
「同数になったら昼の多数決でノンケが勝つことはない。全員食われて終わりだ」
「なるほど…バイトくんたち、話はわかったかな?君たちは夜に一人ずつゲイに襲われてしまうけど、対抗手段として、昼に怪しい人を多数決で決めて島から追い出すことができる。そんな風にしながら、ゲイと腐女子を追い出していって、宝探しを続けてほしいんだ。もちろん、バイト代は弾むよ」
「やります」
俺は即答した。バイト代が増えるのならそれにこしたことはない。ま、どうせ襲われたからって男に目覚めることはないだろうし。
他の10人も帰る気はないようだ。
「ありがとう!じゃあ、今日はもう時間も遅いし、終わりにしようか。各自のコテージを用意してあるから、そこで休んでね。完全防音だから、襲われても周りの人には気付かれないけど…まあ気をつけてね」
村木は手を振って船の方へと帰っていった。
1日目の昼は、こうして終わった。
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