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当時は女の勘、だったがそれはすぐに現実になった。
丸富有華子、という女はアーティストだ。油絵を描いている。
詳しくは知らないけど弟と芸術の話で盛り上がり、交際に発展。仕事にも理解があるということで結婚した。
私はたいそうな人生を歩んできたつもりはないけど、いろんな人間を見てきた。
その中でアーティストという人間ほど信用できない職業はない。
初めからこの女は怪しい、と思った。
弟にもそれとなく探りを入れてみたが大きな収穫もない。
弟は彼女を気に入っていたようで周囲から見ても当初はホカホカした顔をしていた。いつの間にそのだらしない顔が消えたのか分からないけど、気づけば悩みの種になってしまった。
身内贔屓になるかもしれないが、凌は彼女に尽くしてよくしていたと思う。
結婚式は彼女の希望でパリで身内だけの細やかな挙式を行なった。弟の職業を考えるとありえないだろうが、披露宴もせず、挨拶に回ることもなかった。
凌は“今はそんな時代じゃねぇよ”なんて当時は笑っていたけど、凌の友人の九条くんはどこに行くにも可愛らしい奥様を連れて歩き、紹介こそはすれど番犬のように彼女を見守っていたと聞く。(こう見えて私はいろんな情報が入ってくる立ち位置にいる)
彼らの業界じゃ、凌の言い分でも成り立つのだろうが、今でも普通にパートナーを同伴したパーティーや会食は存在する。
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