数字男

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 教室の隅の席でスマホをいじっていると、声を掛けられた。 「隣、いいかな?」  小柄な男子だ。今にも鼻からずり落ちそうな、大きな眼鏡を掛けている。緊張ぎみに、顔がひきつっていた。 「一年生、だよね?周りが女子ばかりで。やっと男子を見つけて、それで……」  辺りを見渡すと、確かにほとんどが女子ばかりだ。 俺の入学したこの学校は、某美術大学。圧倒的に男子の数が少ないことは、入学前から覚悟していた。 「うん。俺も丁度不安になっていたところなんだよ。宜しく、俺は田中」  愛想良くそう言うと、そいつの表情がパッと明るくなった。 「ありがとう!僕、永山っていいます。……そのキーホルダー、魔女コレのアイリちゃんだよね?」  リュックサックに目を止めて、永山が嬉しそうに言う。 「僕も好きだよ。今期イチオシのアニメだよね。あと、あれ観てる?土曜の深夜の……」  永山の話に相槌を打ちながら、この大学に来て良かった、と心底思った。  ここには、俺の趣味をバカにする奴らはいない。作品を観ることもせず、端からキモいと決めつける奴らはいない。  永山も、どうやらいい奴そうだ。  早速友達が出来て、俺は嬉しかった。これからの大学生活が楽しくなりそうな、そんな予感がした。  窓の外で、桜の花びらが、散り急ぐように舞っていた。
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