数字男

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 授業で出された風景画の課題のために、俺と永山は大学近くの神社を訪れていた。  緑の木々の葉を透かして、木漏れ日がちらちらと踊っている。ぽかぽかと暖かく、心地の良い日だった。  俺たちは少し離れて石段に腰掛け、膝の上にスケッチブックを広げた。  鉛筆を握り、神社の鳥居をスケッチしていく。  正直、風景画は苦手だ。  線を引いては消し、引いては消す。消しカスだらけの手を払って、ふと顔を上げると、永山のスケッチブックが目に飛び込んできた。  その瞬間、体温がスッと低くなった気がした。  息をのむ。  上手い。  文句のつけようがないくらい、上手い。  永山は、見つめる俺に気付く様子もなく、一心不乱に手を動かしている。  鉛筆の先から、神社の陰影が、木々のざわめきが生まれていく。  思わず呟いていた。 「……上手だな」 「え?」 「いや、何でもない」  無理に笑顔を取り繕う。  黒々とした冷たい何かが、胸の中で渦巻いていた。  メールアドレスを入力する。  連携は切っているだろうと思ったが、呆気ないほどすんなりと、そのアカウントは見つかった。 『ながやん』  アイコンは、魔女コレのステラ。  どうやら、自作のようだ。あまり上手いとは言えない。風景画は得意でも、アニメイラストは苦手らしい。 『フォロー 120 フォロワー62』  なぁんだ、と詰めていた息をふっと漏らした。  何だ、大したことないじゃないか。  俺は、フォロー数75人に、フォロワー数63人。それも、たった二週間前に始めたばかり。 「俺の勝ちだな」  呟き、にやっと笑った。  イラストを上げるごとに、フォロワーは面白いほど、どんどん増えていった。  卵アイコンも、ヘッダーも、自作のおしゃれなイラストに変え、アカウント名も『SHOU』に変えた。  そのうちに、リツイートやいいねの数が多いアカウントは、たいていフォロー数よりもフォロワー数の方が多いことに気が付いた。  そこで俺は、俺と同じ絵の上手いアカウント以外のフォローを、一気に外した。初めてリプライをくれたアカウントも、躊躇わず外した。 『フォロー 52 フォロワー 466』  ツイッターは、俺が主役になれる世界だった。
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