5人が本棚に入れています
本棚に追加
授業で出された風景画の課題のために、俺と永山は大学近くの神社を訪れていた。
緑の木々の葉を透かして、木漏れ日がちらちらと踊っている。ぽかぽかと暖かく、心地の良い日だった。
俺たちは少し離れて石段に腰掛け、膝の上にスケッチブックを広げた。
鉛筆を握り、神社の鳥居をスケッチしていく。
正直、風景画は苦手だ。
線を引いては消し、引いては消す。消しカスだらけの手を払って、ふと顔を上げると、永山のスケッチブックが目に飛び込んできた。
その瞬間、体温がスッと低くなった気がした。
息をのむ。
上手い。
文句のつけようがないくらい、上手い。
永山は、見つめる俺に気付く様子もなく、一心不乱に手を動かしている。
鉛筆の先から、神社の陰影が、木々のざわめきが生まれていく。
思わず呟いていた。
「……上手だな」
「え?」
「いや、何でもない」
無理に笑顔を取り繕う。
黒々とした冷たい何かが、胸の中で渦巻いていた。
メールアドレスを入力する。
連携は切っているだろうと思ったが、呆気ないほどすんなりと、そのアカウントは見つかった。
『ながやん』
アイコンは、魔女コレのステラ。
どうやら、自作のようだ。あまり上手いとは言えない。風景画は得意でも、アニメイラストは苦手らしい。
『フォロー 120 フォロワー62』
なぁんだ、と詰めていた息をふっと漏らした。
何だ、大したことないじゃないか。
俺は、フォロー数75人に、フォロワー数63人。それも、たった二週間前に始めたばかり。
「俺の勝ちだな」
呟き、にやっと笑った。
イラストを上げるごとに、フォロワーは面白いほど、どんどん増えていった。
卵アイコンも、ヘッダーも、自作のおしゃれなイラストに変え、アカウント名も『SHOU』に変えた。
そのうちに、リツイートやいいねの数が多いアカウントは、たいていフォロー数よりもフォロワー数の方が多いことに気が付いた。
そこで俺は、俺と同じ絵の上手いアカウント以外のフォローを、一気に外した。初めてリプライをくれたアカウントも、躊躇わず外した。
『フォロー 52 フォロワー 466』
ツイッターは、俺が主役になれる世界だった。
最初のコメントを投稿しよう!