数字男

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 夏休みを二週間後に控えた日の授業で、教授が補習に該当する学生の名前を読み上げた。  例の、風景画の授業だった。 「田中くん」  覚悟はしていた。が、自分の名前が呼ばれた途端、どくん、と心臓がのたうった。  隣の席で、心配顔の永山が、こちらを見ているのが、視界の隅に映る。俺は永山を絶対に見ないように気を付けながら、机の上で組んだ両手を見つめていた。 「そして、優秀作は永山くんの作品です」  教授の言葉に、え、と目を見開いた。  思わず永山に顔を向ける。  その顔は、驚きと喜びで輝いていた。信じられない、とばかりに目を見張っている。 「ありがとう、ございます……!」  教授が、めったに見せない微笑みを永山に向けている。  周りの学生たちも、凄いね、と囁きあっている。  教授が、永山の作品を黒板に貼り出す。  あの、神社の絵だった。 『よくそんな幼稚なイラスト人前に晒せるなwww』  帰宅してすぐ、パソコンのアドレスを使って、裏アカを作った。 『肩外れてんぞww骨格から練習し直せ』  『ながやん』が投稿した、魔女コレのアニメイラスト。  そのひとつひとつに、リプライをつけていく。 『小学生かよ?ってレベル』 『草しか生えない』  その裏で、俺の本アカは、今日もいいねのオンパレードだ。  俺は、永山よりも勝っている。  すがりつくような気持ちで、俺はリプライを送り続ける。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加