数字男

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『風景画に挑戦してみたw』  そのツイートは、瞬く間に称賛を浴びた。 『風景画も上手なんて、尊敬します』 『あなたが神か』 『純粋に、すごい』  手放しの誉め言葉。リツイート、886。いいね、1260。  俺のスマホはひっきりなしに、数字を受信する。  罪悪感は全くなかった。  永山は大馬鹿者だ。作品は、大勢の人に認められてこそ、価値がある。たった30人のクラスの中で一番になったところで、意味はない。  リツイート、1012。いいね、1853。  俺はただ、お前の絵を有効活用してやっただけだ。文句ないだろ? 『この絵、見たことある。もしかして盗作?』  そのリプライに、通知を更新する指先が固まった。  アイコンは、飼い猫だろうか。縞模様の猫の写真。アカウント名は、『りょーこ』。  まさか、と思い、そいつのホーム画面を開く。 『趣味/絵を描くこと、絵画鑑賞/今年から美大の一年生です♪』  あいつだ。風景画の授業で、一緒だった。あの教授はいつも、授業の始めに出席を取る。だから、覚えてる。ボブカットの、勝ち気な雰囲気の近寄りがたい女子。確か、名前はナカダリョウコ。  背筋がぞくりとした。  ヤバい、とその時初めて思った。 『ほんとだ、これ、優秀作に選ばれたヤツじゃん』 『盗作?永山は知ってんの?』 『え、この絵盗作なんすか?それヤバくねww』 『騙されたわ』 『本当だったらクソだなw』  ヤバい、どうしよう、ヤバい。  あ、と思う。フォロワーが減っている。5人。いや、7人。 『アカ消しして謝罪しろよ』 『あなたの行為は、れっきとした犯罪ですよ?』 『無視するなしwww』  頭の中がぐらぐらと揺れている気がした。  必死に吐き気を堪えながら、神社の画像のツイートをタップする。 『このツイートを削除しますか?』 『はい』  しかし、俺の別のイラストに、批判が、罵る言葉が増えていく。逃げるな、証拠隠滅したつもりか、スクショしてあるぞ――。 『そのアカウント、僕の別アカです』  突然、リプライが表示された。  目を疑う。そんな、まさか――。 『誤解を生むようなツイートをしてごめんなさい。画像は削除しました』  思わず、あぁ、と呟いた。  アカウント名は、『ながやん』。  とても上手いとは言えない、線の粗いステラのアイコンが、微笑んでいた。
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