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そんなの——。
僕は喉元まで出かかった言葉を一旦飲み込む。
「そうだよ。征司くんが君の身体を傷つけることを望むはずないじゃないか」
だけど九条さんに説得されると
言わざるを得なくなった——。
「そんなのキレイごとだってば……」
「和樹坊ちゃま!」
中川の手を振り切って立ち上がると。
僕はやむをえず九条さんと睨み合う形になった。
「あの人が本当に望んでいることなんて僕以外の誰に分かるというの?」
「和樹……」
愛する人を傷つけたくはない。
しかし一番傷つくであろう言葉を僕は平然と口走る。
「あらまあ」
貴恵が皮肉をこめて鼻で笑った。
薫は淀んだ溜息を吐くと、もう一本煙草に火をつけた。
沈黙が永遠のように感じる時間。
紫煙だけが辺りを包む。
それでも僕の心は不思議なことに波立たず静かなままだった。
そして再び独り言のように口を開く。
「明日医者と話に行く。場合によっては——すぐにでも手術してもらえるように話をつけるよ」
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