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こうも簡単に壊れることができたら、私はこんなに苦しむことは無い。なのにそれができないのは、この面倒くさい恐怖という感情のせい。
晴夏はしばらく黙った。そして、床のガラスの破片をそっと掴んだ。器用に拾ったのか、指からは血が出てこなかった。
「壊れて何になるんだよ。とげを残して、相手を傷つけるためか? この砕けたガラスを見ろ。何も残ってないだろ」
晴夏は、ガラスから手を離した。ガラスは、割れなかった。
「だったら、人を傷つけない壊れ方をした方が絶対にいい。何もかもなくなった後に残るとげほど、虚しいものは無いぜ。今、お前が壊れても、何も残らない。お前は人のために壊れようとしていないから」
それは、兄にお似合いの言葉だった。私は、悔しくなった。
「……もし壊れそうになったら言えよ。俺はお前を壊したりしないから」
晴夏はそう言って、部屋を出ていった。
私は、しばらくこの飛び散ったガラスを見つめていた。
そして私は、唇をかみ締めながら、晴夏の部屋へと向かった。
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