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第10話 パーティ前夜
花火大会の後、僕達は激しい夜を過ごした。
とはならなかった。
付き合うとは言ったものの、何かが変わるわけではない。
今までの生活よりもほんの少しだけ、僕とご主人様の距離が縮まっただけ。
そんな生活も気がつけば秋に差し掛かっていた……
窓から差し込む陽の光は徐々に柔らかさを増して、だいぶ過ごしやすい季節になった。
あの時僕が口走ってしまった言葉を、後悔はしていない。
だけど、何か変われたのかなって考えるとあの時とは全然変わっていないと思う。
やっぱりこっちから何かアクションを起こした方がいいんだろうな……
なんてダラダラ考えていたら秋も半ば、10月の中旬を迎えてしまった。
10月かぁ……んー……何かないかなぁ…………
そうだ!アレがあるじゃないか!
「ご主人様!そういえばそろそろハロウィンですね!」
「そうか、もうそんな時期か……」
「2人で仮装パーティしませんか!?」
「え……2人でやってそれ楽しいのか?」
「そ、それは……」
「考えてくれるのは嬉しいけど、無理しなくていいよ」
くそぉ……
ご主人様に気を遣わせてしまった……
これじゃあの人の代わりになるなんて出来ないよ……
あの人はこんな時どういう風にご主人様を笑顔にさせていたんだろうか……?
相変わらず僕は家の事全般をこなしている。
ある時僕は家に届いていたチラシをチェックしていた。
たまに超お得な情報が紛れ込んでいてテンションが上がったりもする。
ちなみに、食費は1万円から3万円までに上がった。
どうやら最初の1万円という縛りはただの冗談だったらしい……
今はその3万円で余った分を好きに使っていいと言うから、かなり本気で節約中。
話は逸れたけど、そのチラシの中に町内会のハロウィンの案内があった。
ご近所にお住まいの方も奮ってご参加くださいと……
ならばそのハロウィン、ありがたくデートに使わせてもらおう!!
――その日の夜
ご主人様とご飯を食べ、ひと段落してる時に話題に上げてみた。
「あの、ご主人様!ハロウィンパーティが次の土曜日にあるんですけど一緒にどうですか?」
「ハロウィンパーティ?」
「そうです!パーティです!」
「どこでやるんだ?」
「えーと……近くでやります!」
「へー、珍しいもんだな」
「だから空けといてくださいね!」
「わかった、楽しみにしておくよ」
ご主人様は特に何も疑問も持たずに笑顔で返事をしてくれた。
僕は何も嘘をついてない。
ハロウィンパーティをする。
そうだ、正しい事をしてる。
変な罪悪感を覚えたけど全部胸にしまっておく事にした。
あれから数日が経ち、ハロウィンパーティの前日。
いつも通り晩ご飯を食べ終えた後のひと時。
ご主人様がウキウキで何かを部屋から持ってきた。
「じゃーん!」
「何ですかそれ?」
「明日着ていく仮装だよ」
「おー!買っておいてくれたんですね!」
僕は適当に怖いメイクをして、いらなそうな服を破いたりしてゾンビっぽくすればいいかなぁ……ぐらいに思っていたが、ご主人様の期待の高さが見える。
「そうなんだよー、バレないように近くのコンビニ受け取りにしてお前を驚かせてやろうと思って」
「いやー、驚きましたよ!こんなに楽しみにしてくれてるなんて……」
「当たり前だろ、せっかくお前が考えてくれてデートなんだから全力で楽しまないと」
ご主人様のこういうところを前の人は好きになったんだろう。
かく言う僕も、そんなご主人様のところが好きだ。
「えーと、お前はこれな」
「これって……?」
「これか?超原始戦隊ストーンレンジャーの敵のマンモースだ」
「あー、今子供に人気のやつですね」
“超原始戦隊ストーンレンジャー”とは、子供たちに人気のヒーロー戦隊で、マンモースは悪の親玉だ。
しかし、なぜご主人様はこんなのを選んだのだろうか……
花火大会の時に着た浴衣は、まあまあカッコいいデザインだったのにどこで変わってしまったのだろう。
もしかして、付き合うとその人は相手に影響を受けるって言うしもしかして僕がダサいのか!?
もう考えるのをやめよう……
「ちょっと試しに着てみろよ」
「いいですけど、ご主人様は何にしたんですか?」
「俺はストーンレッドだ」
「ですよねー……」
やはりここでも上下関係が変わらないのか……
とりあえずマンモースの衣装を着てみる事にした。
……鏡で見てみると我ながら似合っている。
そして、ご主人様も衣装を着終わっていた。
こっちもこっちで似合っているのが悔しい……
すると突然ご主人様のスイッチが入った。
「おい!悪の親玉マンモース!今からお前を倒してやる!」
「え、そういう感じですか?それなら……ふはは、お前も化石にしてやるモース!」
激しい夜は激しい夜でも、いい歳した男2人が家で戦隊ごっこして遊んでいる。
しかし、あまりにも騒ぎすぎたのでお隣から苦情が来たのはここだけの話……
明日はハロウィン本番!
果たして町のハロウィンパーティに僕たちは馴染めるのか!?
そして喜んでくれるのだろうか……
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