第12話 誓いの橋

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第12話 誓いの橋

僕達はまだ何も変わらない。 男女の関係なら手を繋いだり、キスをしたり…… 変わっていく事があるのだろうけど、僕達は男同士。 言ってしまえば僕は女性の方が好きだ。 でも今はご主人様のことが好きだ。 この突然の変化についていけてないのは自分なんだろう。 まだ手を繋ぐことだって考えられないレベルだ。 ご主人様と出会ってもう半年…… こんなんだったら愛想尽かされちゃうよなぁ…… 普通の恋人達は浮かれ気分な季節。 クリスマスがそこまで迫っている…… 「お前クリスマス空いてるよな?」 「え、クリスマスですか?空いてますけど……」 「じゃあ空けとけ、仕事行ってくる」 「い、いってらっしゃい……」 今なんて聞かれたっけ…… クリスマスって言ってたよな……? 空けとよって事はもしかしてデートに誘われたのか? 今までは僕から誘うだけだったデートを、ご主人様から誘ってくれる。 こんなに幸せな事はないなぁ…… 今日はいつもより腕によりをかけて美味しいもの作ってやろうじゃないか!! 掃除も洗濯も料理も、全くのど素人だった僕は半年間の間に人並みには出来るようになっていた。 なんなら掃除したくてうずうずするし、洗濯だって色落ちとか気にして洗剤やら洗い方だって変えてる。 料理もあれから道具を増やしてレパートリーだって増えた。 主夫としてのスキルは抜群に上がっただろう。 これも全部ご主人様のおかげだ。 さあ、買い物に行こーっと! そろそろご主人様が帰ってくる時間だ。 玄関の開く音がする。 この音が一番好きだ。 なぜなら1人寂しい思いをしなくて済むからだ。 「おかえりなさーい!」 「おう、ただいま」 「ご主人様!今日は特別腕によりをかけましたよ!」 「珍しいな、何かあったのか?」 「いえ!なーんにも!」 そう、何にもないんです。 こうやって2人で一緒に居れるだけで幸せなんだから。 今年は何年か振りの雪が降った。 恋人達は2人の手を絡めて寒さを分かち合う。 そして、愛を確認し合う日がやっきた。 僕は休みの日はいつもより遅めに起きる。 ご主人様を起こす必要もないし、ご主人様もおそようございますだからだ。 「おはようございます……」 「おう、今日は16時ごろから出かけるからそれまでにやることやっておけよ」 「はーい」 どこに連れて行ってくれるんだろう。 ワクワクするなぁ…… 楽しみな時間はあっという間に訪れる。 だいたいの家事を終わらせてのんびりしていた。 「そろそろ行くか」 ご主人様はどこに行くかも教えてくれない。 そのまま準備をして外に出た。 ご主人様の後をただ着いていく…… そろそろ30分ほど歩いた。 んー……?結構歩いたけど、どこ向かってるんだ? 「あの……ご主人様、まだですか?」 「お、ここだ」 「え、ここって……」 ご主人様が向かった先は、クリスマスにカップルで賑わう通称”誓いの橋”と呼ばれる所だった。 ここは橋の両橋から中央に向かって歩いていき、その間一瞬でも目を逸らさずに相手の目を見つめあえていれば永遠の愛を誓える……と言われているデートスポットだ。 「お前、あいつの代わりになるって言ったよな?だったら少しぐらいわがままに付き合え」 「わがまま……?」 「本当はあいつと来たかった場所なんだ」 ご主人様はやっぱりまだあの人の事を忘れられずにいるんだ。僕はこの半年でだいぶ変わってきたし、ご主人様にも少しは認められる人にはなってると思ってた。 周りは楽しい気分で溢れているのに、僕の中には悲しい気持ちで満たされていた。 「ほら、向こう行けよ」 「え、何でですか?」 「何でですかじゃねぇよ、これをやるからここに来たんだろ」 僕はしょうがなしに橋の反対側に向かった。 全長は10メートルほどの短い橋だが、人で溢れてギチギチしてる。これがこの誓いの橋の難しいところで、他の人とぶつからないように視線を外してしまうことがある。 僕は向こう側にいるご主人様を見つけ、準備をする。 歩き出すご主人様、僕はそれに釣られて歩き出す。 この目だ、この目に惹かれて僕は…… 僕はそのままご主人様の目に吸い込まれていくかのように歩いていく。 しかし、ここである声が耳に入った。 「うわ、あれ男同士じゃん」 「えー、まじー?」 やっぱり男同士でデートスポットなんて浮くよな。 思わず悪口の方へ向いてしまいそうになった。 だけど、ご主人様の視線がより強くなる。 また僕はさらに吸い込まれていった…… そのまま視線を逸らさずに僕達は中心まで向かう事ができた。 その瞬間ご主人様はさっき悪口を言っていたカップルに向かって行く。何をするんだろうと眺めていたら…… 「お前達か?さっきごちゃごちゃ言ってたのは?」 「え……いや……」 「悪いな男同士で……でもお前達よりは幸せだと思ってるから」 カップル達は呆然と立ち尽くしていた。 戻ってきたご主人様はニコニコ笑っている。 これは悪い時の顔だ…… 「さあ、こんな気分の悪い所からさっさと行くぞ」 「は、はい」 この時僕はあることに気付いた。 僕達は自然に手を繋いでいる。 ご主人様が手を取り、思わず握り返してしまった…… いや……別に悪いことじゃない…… むしろ喜ぶべき事だ。だけどどうしてご主人様は…… 「ご主人様、なんで……ですか?」 「ん?お前と誓ったんだよ、だから繋いでんだろ」 そうか……ご主人様はあの人じゃなくて僕を見てくれていたんだ…… そう思うとなぜか涙が溢れてしまった…… 「ありがとな、あいつの事忘れられそうだわ」 「い、いえ……」 「そうだ、まだ寄るとこあるから」 「……え、寄るとこ?」 ご主人様と僕の関係はまたひとつ進んだ。 もうきっとご主人様の中にあの人の影は無くなった。 僕はきっと無理をしてたんだと思う。 あの人より良くならなきゃって…… でもありがとう、名前の知らないご主人様の恋人さん。 しかし、ご主人様は僕の事を連れてどこにいくのだろうか? 僕の心はまだドキドキしている……
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