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終 焉
ドカーーーン!!
大きな爆音と共に、オレンジ色の火柱が上がる。夜空を赤々と照らし、ゴウゴウと燃え盛るのは、巨悪の巣窟――「黒鬼会」の総本部だ。
「終わったな……」
特殊ゴーグルのバイザーを上げて、ブルーが呟いた。凛々しい眼差しが、微かに潤んでいる。
「ああ……長い戦いだった」
俺達が出会ってから、既に8年。奴らとの戦いは、約5年に渡った。
明日から――いや、あと数日は事後処理があるとしても――週明けには、戦いとは無縁の日々が待っている。
夜風に乗って、肉の焦げる独特の悪臭が届く。黒鬼会によって改造された手下、黒鬼達の死骸が燃えているのだろう。
「グリーン、風が強い。近隣への延焼は大丈夫だろうな?」
俺は、特殊スーツに内蔵された通信システムで、仲間に連絡を取る。
「お前は、相変わらず心配性だな。ここいら一帯は、買収済みだと言ったろう。どうせなら、全部燃えりゃいいんだよ」
グリーンは、冷めた口調で吐き捨てる。
そうだ。総本部の場所を突き止めてから、周囲のゴルフ場ごと土地建物を買い上げた。いわば私有地で発生した火災だから、市民に迷惑はかからない。
「消防と警察には、博士が手回ししてあるから……安心しろよ」
「すまない。ありがとう」
イヤースピーカー越しに囁かれた優し気な声に、過敏になっていた気持ちが宥められる。
グリーンの言う通りだ。全て無かったことのように、消えてしまえばいい。奴らの悪行も、俺達の出自すら――。
「レッド、一晩中待機するの?」
ピンクが息を切らしながら、駆けてきた。
「一応、鎮火するまで確認しないとな。お前らは、先に帰っていいぞ」
「何言ってるの。これで最後なんだから……あたしは見届けたいわ」
バイザー越しに彼女が睨む。ああ、それもそうか。
「おーい! 中、入れよ!」
エンジン音が近づいたかと思うと、白いワゴン車が停車した。運転席からイエローが顔を出した。
「待機するにしても、朝まで立ってるつもりか? 休もうぜ」
「そうね。ね、2人とも」
ピンクに促されて、踵を返す。ブルーは、その場を動かなかった。
「いいよ。好きにさせてやれ」
気遣うピンクの腕を掴んで、開け放たれたドアから車内に入る。
今夜で全てが変わる。それぞれの心の内で、思うことがあるのだ。
ガラガラと轟音を立てて、総本部のビルが崩れた。遠くの空から、ヘリが1機飛んで来るのが見えた。多分、いつもの新聞社の報道ヘリだろう。
「博士――聞こえてる? ヘリ、来ちゃってるよ?」
運転席でイエローが連絡を取っている。
「え、いいんだ? あっ、そう」
報道規制をかけない。つまり、世間一般にも戦いの終焉を周知するつもりなのだろう。
「本当に、終わったのね……」
ピンクの涙声が、再びの轟音に掻き消えた。
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