憧れの人を追いかけて

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憧れの人を追いかけて

 クリスマスまで後2週間と迫ってきた。  三階建の街で一番大きなショッピングセンターには、恒例のクリスマスソングが流れていた。    おもちゃ屋に群がる大人達を横目に、ツリーの飾り付けや、小さい発泡スチロールの塊を脇に抱え、俺、与那原 虎白は、鼻歌交じりに仕事場であるアパレル店『Beyond the World』へと戻り店内にいるスタッフに戻りましたと声をかける。    クリスマスは、初めてではないけど、心が弾むのは憧れの人を追いかけ、沖縄から雪が降るという京都に来て、初めてのクリスマスなのだ! 「与那原、買い物から戻りました!」 「お帰り、悪いな…で、ちゃんとメモ通りに買って来ただろうな?」  勿論です!と親指を立て、この店の店長で俺の憧れの人、葛目 黒兎さんに買ってきた袋を差しだすと、信用できないとでも言いたそうな顔で受け取り、中身を確認したあと、ホッと息を吐く。  それを目にした俺もまたホッと胸を撫で下ろす。    うん、これは正解だったみたいだ。 「やっと買い物ができるようになったな」 「ちゃーやみ!おれだってできるっす」 「…………おい、方言、使ったな」 「あー!!!!」  俺の叫びにため息を零した葛目さんが、レジ脇に置いていた缶を掲げ、俺に差し出す。  そう、俺だけがウチナーンチュだから、原則方言禁止の店では理解できない方言を使うと、罰として100円をこの『いつかの為に使う貯金箱』に入れることになっていて、その箱を揺らす葛目さんの顔がニヤついていたのは、見なかった事にしよう。  ジーンズの後ろポケットに入れていた財布を取り出し、泣く泣く小銭のファスナーから光る百円玉を穴から落とすと、店内にいるスタッフからは毎度あり〜の声が飛ぶ。 「気を緩めすぎだアホ」 「関西弁、いつか話してみせます!」 「ペンギンが空飛べるのと同じぐらい無理だな」  まぁー、頑張れと笑いながら、買った袋をストックルームへと持っていった葛目さんの背中を見送った俺は、ふぅーと息を吐き、店頭のたたみにはいった。  ここで、俺と葛目さんとの出会について語ろうと思う。  と言っても人様が感動できるようなエピソードは持ち合わせてはいないのだが、まぁ、聞いてほしい。  初めて葛目さんと会ったのは、高校の時に両親と来た四国の旅行。   今いるショッピングモールと同じ系列のモールに入っているファッションショップで接客をしてもらったのが、葛目さんだった。    人見知りで、ガチガチに緊張していた俺のコーディネートを緊張するなと冗談を交えながら見立ててもらってからは、地元に帰った後も忘れられず、葛目さんの下で働きたくて、大学に進んでほしかった両親の反対を押し切り、沖縄にある系列のショップで2年働いた頃、沖縄店の店長からお墨付きをもらった俺は、月一で来ていたエリアマネージャーに土下座をして移動願いを受理してもらったのが1年前。  念願の葛目さんの下で働ける事になったのだが、悲しい事にこの話を本人は全く覚えてなかった。  勿論、勢いで来たものだから、住む場所がなかなか見つからず、エリアマネージャーが見つかるまでの間、葛目さんとのシェアハウスを提案され住む事になったのだが、憧れはいつしか恋愛対象の好きへと変わっていき、気づけば俺から告白していて、今は恋人と言ってもいい関係。    そして!今年のクリスマス!  今日は恋人となって初二人っきりで残業!  こんな幸せなことはない!今俺の頭の中はその事で頭がいっぱいだ。
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