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二人っきりの甘い残業は?
店内の一角には、子供に気を取られる事もなく親が買い物を楽しめるように、低年齢の子供達を遊ばせるスペースがある。
そこを利用して、何かを作るみたいだけど、知っているのは葛目さんの頭の中だけ。
俺の頭の中と言えば、二人っきりで何をしよう何をするんだろうが頭の中を駆け巡り、ま、家に帰れば二人っきりだけど、仕事場の二人っきりなんて初めてだから、ドキドキとわくわくで今なら音がなくてもエイサーが踊れる。
ショッピングモールに響く営業終了の音楽と共に最後のお客様を見送り、店の入口に置いてある什器を片付け、クローズの看板をつけたネットを端から端へとかけ終えた俺は、店のBGMと一部を除いて照明が落ちた店内へと入った。
レジのカウンターへと戻ると、黒革の鞄に売上金を詰め込んでる葛目さんに声をかける。
「入金なら行きますよ?」
「俺が行く。お前は店の片付けだ」
「えーそこは一緒に行くか?でしょ?」
「あ?お前、ここで俺とお前の立場はなんだ?」
「上司と部下です…わかってますよ!」
冷たい視線が刺さる。
冗談が通じない葛目さんの質問にすね気味に答えてから、店内整理を始めた俺をよそに、卒なくレジ閉め作業をこなすと、バックと金庫の鍵を持って店から出ていった。
一人取り残された俺は商品整理を終え、簡易的に作られた工事中のプレートが付いている遊び場の前で、ぐっと伸びをしてから腕をくみ、白いシートに封じられた遊び場を見下ろす。
「これ、いつ始めるんだろ?」
2日前から閉鎖された遊び場を囲っていたビニール紐に触れようとしたところで、帰ってきた葛目さんに呼ばれて振り向くと、ホラッと何かの物体が俺に向かって飛んできた。
それをなんとかして受け止めた手の中には、温かい缶コーヒー。
もしかして、これはサプライズ的な何か?!って事は…これを渡す為に冷たい態度をとって、俺の為に買ってきてくれたんっすね!!
感動した俺は葛目さんの腕を引き、その腕の中で収まる葛目さんをギュッと抱きしめると叫ばずにはいられない愛を叫ぶ。
「かなさいびーん!!」
「うるせぇ!!!沖縄語で叫ぶな!!くっつくな!」
「無理でーす!今の俺は葛目さんへの愛が溢れちゃってるんで!」
「わかった!わかった!気持ち悪い事言ってねーで仕事するぞ」
つれなさるく言葉でも口調が優しくなり、手で頭を撫でられると、抵抗を諦め、甘えてもいいというサインを出した葛目さんを、遠慮なくぎゅっと抱きしめた。
暫くすれば俺の気も収まり、自然と上司と部下の関係へと戻っていく。
遊び場の白い布をめくってこいとの命令に文句を言うが、一喝されれば聞き入れるしかない。
口を尖らせ文句を言いながらも、渋々、葛目さんを解放し、遊び場の白い布を畳みながら捲っていくと、徐々に現れてくる遊び場。
その全貌が現れると、見たこともない景色が飛び込んできた。
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