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「身分違いの王子と町娘の恋物語だったはずなんだけど、最後に彼らがどうなったのかどうしても思い出せないのよ。その先が気になって気になって……」
「身分、違いの……」
「そう。でもまぁ所詮ファンタジーよ。私はそんなもの、非現実的で望みもしないけれど。知的好奇心は満たすべきじゃない?」
「あぁそうかい」
きゅっと分かるか分からないか程度に眉を潜めるエドワードに、エマは今日の彼はいよいよ分からないと鼻息を吹いた。
「さて、そろそろ帰るわ。クリスマス休暇の前半はマシューのうちにお呼ばれしてるのよ。そろそろ準備をしないと」
「マシュー……って、あのくるくる毛の、マシュー・フローリーの家か?!」
「そうよ。クリスマスを1人で過ごすならどうかなって誘われたのよ。何度かお邪魔したことがあるんだけど、お父様もお母様も品があって優しくて、とても素敵な方達だったわ」
「何度、かお邪魔……」
エマは満面の笑みでエドワードを見返した。当のエドワードは切れ長の目をまん丸と見開き、今にもいきり立とうとしているのか椅子に中腰姿勢だった。
「フローリーは……男だぞ」
「男の子と仲良くしてはいけないだなんて法律、この国にはないわ」
「お前まさか……アイツがすっ、好きなのか?」
「好き? ええ好きよ。あなたよりは断然好き。とても優しくて物静かで、いいお友達だわ」
────この女は相手も自分のことをいいお友達だと思っていると、本気で思っているのか?
何を着て行こうかしらと鼻歌交じりにペンを片付けるエマを見ていると、エドワードは腹の底からふつふつとよからぬ何かが沸き立ってくるのが分かった。
──── 駄目だ、駄目だ
口をついて出てきそうになる鋭利な悪態の数々をゴクリと飲み込んだ。ほぼ初めてと言っても過言ではないほどエマと自然な会話ができたというのに。
しかし今すぐ何か言わなければ、鈍感なエマはこのまま席を立って「よいクリスマスを」の捨て台詞と共に去っていくだろう。
エドワードはエマの隣で輝くランプを食い入るように見つめた。
──── 何かないか。なんでもいい。彼女をもう少し、もう少しだけここに留め置けるだけの方法を、
彼女に何か、もう少しだけ……
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