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「怒ってるのか? 不甲斐ない僕を」
「エドワード様……」
「なんでだろう。やっと家を出られたというのに僕は……あぁ、滑稽だな」
「エドワード様。じゃあせめて、祈らせてくださいませんか? 一緒に」
シェリルは木箱から小さなオーナメントを取り出した。輝きは10年前からひとつも失われていない。エドワードの願い星だ。
「今日はクリスマスです。もう夜になってしまいましたが、きっとオリヴィア様が叶えてくださいます」
「シェリル……」
エドワードはふと熱くなり始めた目頭の痛みをなんとか抑えつけ、その願い星を手に取った。最後に願ったのはいつだったか。そう、ちょうど10年前のクリスマスにはエマに譲ったから、11年前だ。
来る年も来る年も同じ願いばかりをしていたことを思い出す。母は空からそんな自分を見ながら何を思っていただろうか。
ふと幼い自分を思い出してしまったエドワードは、どうしようもない笑みをこぼしていた。
「シェリル、笑ってくれよ。どんなに考えても僕は、やっぱり同じ願い事しか思いつかない」
「いいじゃありませんか。シェリルも一緒に、お祈りさせてください」
エドワードの隣で両手を絡ませたシェリルは祈るように目を閉じた。
エドワードは胸の中で、もう唱え飽きた願い事をもう一度祈る。
祈ってもいいのならば、
願ってもいいのならば、
それが、許されるのならば。
──── 僕はもう一度、エマに優しくしたい……
エドワードはそっと瞳を閉じた。
目蓋の裏に幼いエマの笑顔が浮かぶ。
あぁ、痛い。苦しい。堪らない。
途端全身が悲鳴を上げだす。
我慢ならず膝から崩れ落ちたエドワードは、本当に久しぶりに、自らの涙の熱さを知るのだった。
「……エドワード様っ!!!」
突然肩に走った痛みにエドワードは感慨にふける間もなく目を開けた。シェリルが窓の外を眺めながら、エドワードの肩を掴み、本能のままに強く強く揺さぶっている。
何事かと顔を上げたエドワードの視線の先には、あの日と同じように雪がちらついていた。部屋の明かりに照らされた庭は一面真っ白い絨毯で覆われている。
「……っ!!」
エドワードは立ち上がっていた。
痛みを忘れるほど夢中で握りしめた両手が、小刻みに震え続ける。
しんしんと降り積もる雪の中、エドワードの視線の先で心から焦がれた赤毛がふわりと揺れた。
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