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体が震えている。きっと寒さのせいじゃない。
女性のように綺麗な手のひらは、大きく骨張っていて温かな男性の手だった。その温もりが、その強さが、泣きそうになる程愛おしい。
エマは不格好なのを承知で笑顔を作った。どんなに滑稽でも構わない。ありったけの気持ちを込めて、彼に心からの、最高の笑顔を向けたい。
「……私もよ、エドワード。10年前からあなただけをずっと、愛してる」
目を細めたエマの目尻から涙がこぼれ落ちる。それが指に触れた瞬間、エドワードの体の奥底から愛しさが溢れ出した。
唇が、不格好に弧を描いていく。喉元にこみ上げる熱は痛いはずなのに、ただ幸せしか感じなかった。
「長く待たせて、ごめん」
「お互い様よ」
「本当にごめん。でも僕は君を、こんなにも愛してる」
「大丈夫。それも一緒よ……エドワード」
エマの視界でプラチナブロンドが揺らいだ。性急に塞がれた唇に肩が跳ねる。それでも久しぶりに思い出した甘くて苦しい感覚に、エマはゆっくりと瞳を閉じた。
エドワードのキスはいつだって苦しかった。それでもこの乞うようなキスは、他の誰でもない。全てエマに向けられたものだ。
ただ、エマだけを乞う、エドワードのキス。
苦しさの中にとてつもない愛しさと甘さ、そして幸せを感じるのはきっとそのせいなんだろうと、エマは思う。その幸せは瞬く間にエマの体全体を満たしていった。
「エマ……っ」
まるで泣くように、喘ぐように名前を呼ぶエドワードの声が、エマの鼓膜を切なく揺らす。
「愛してる」
この言葉をずっと、もう一度聞きたかった。エマは静かに頷き、ゆっくり腕をエドワードの背中へと回した。
寒さも忘れた2人は、あの日のクリスマスのように唇を重ね続けた。
まるで失いかけた思い出のピースをひとつずつはめていくように。
10年間という長い年月を、ひとつずつ埋めていくように。
嘘偽りのない互いの心を通わすように。
もうその手を、一生離さないで済むように。
雪が舞い落ちる白銀の世界の中、嘘じゃない、心からの「愛してる」を、2人はいつまでもいつまでも交わし続けるのだった。
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