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「ねぇエド、あなたいつまでそうしている気?」
「さぁ。どうだろう」
全く意味のない返答に、エマは心底呆れたようにため息を吐いた。
シェリル特製のホットチョコレートで体の芯まで温まったエマは、エドワードのベッドの上で、あろうことかエドワードの膝の上に乗せられていた。
当のエドワードは後ろからエマを抱きしめたままピクリとも動こうとしない。
エマはその不自然な体制のまま、エドワードのマフラーの綻びを繕っていた。
首筋に埋められたエドワードの顔が動くたび、背筋が意識とは関係なく震える。
その度にうっかり針でその美しい腕を傷つけてしまいそうで、先ほどからエマはずっと気が気でなかった。
「ごめん……丁寧に使ってたつもりだったんだ。それでもほつれてしまって、なんとか自分で直してきたんだけど……上手くできなかった」
「10年使い続けて生き残ってるだけでも凄いわよ。作り直しましょうか? なんだか拙くて恥ずかしいし、今ならもっとうまく編めるわ」
「いや、僕はこれがいい」
ちう、と首筋に音がする。
エマは大袈裟に体を跳ねさすと、遂にマフラーの手直しを諦めた。
「あなたどうしちゃったの? まるで甘えたがりの子どもみたいよ」
「それで結構だ。君を好きな気持ちは幼い頃から変わらない。エマ、いつまでここに居てくれる? シェリルもいる。ジョンも変わらず元気で、年明けに戻ると言ってくれた」
「そうなの? よかった……でも私は……その……あなた次第よ」
「僕次第? 僕はずっとここにいてくれたらいいと思ってる。君がしわくちゃのお婆さんになるまで、ずっと……」
エマはハッと目を見開くと、エドワードの腕を解き後ろを振り返った。長い前髪に隠された顔を覗き込む。白い陶磁器のようなエドワードの肌は、耳の先まで真っ赤だった。
なのにそのアイスブルーの瞳は真剣にエマを見つめている。
その緊張は、あっという間にエマにまで伝染した。
「そっ、そ、それは……今日再会したばかりで、きゅ、急過ぎないかしら?」
「僕もそう思う。まだ指輪すら用意できてない。でもそれはこれから早急に君に似合うものを探すよ。姓だってもう、エバンズだ。だから」
「違うわ! あなた、少しずれてる……私が言ってるのは私達には気持ちや環境の整理が必要という意味で」
「君はこの先、僕以外の人間と結婚したいのか?」
結婚の2文字にエマの頭が遂に爆発した。
あえて言葉を濁し続けたというのに。こうして明確な言葉としてエドワードの口から出てきてしまった以上、逃げ続けることはできない。
もちろん逃げるつもりはないのだが、先ほどからずっと、エマの心臓はまるで壊れてしまったかのように早鐘を打ち続けていた。
ゴクリと生唾を飲み込む。エマはゆっくりと深呼吸した。今は決して、逃げるべき時ではない。
「そ、そんな訳……ないじゃない」
「え……?」
「わっ、私だってあなたのお嫁さんになれたらどんなに幸せかって……ずっと思ってたわ」
エドワードがハッと口元を覆う。
エマの顔は再度爆発していた。こんなにも熱く燃え上がるような感覚は、未だかつて経験したことがない。エマは慌てて顔を伏せて両手で覆った。
「ごめん……参った。僕、また泣いてしまうかもしれない。本当……夢みたいだ」
「……っ」
「エマ、頼む。顔を上げてくれないか」
エマは顔を伏せたままぶんぶんと首を振った。
「今はだめ……そもそもなんで顔をあげなきゃならないの?」
「キスできないからに決まってるだろ」
この男は分かってやっているのか。
エマは滑稽なくらい赤くなった顔を見られまいと、一生懸命両腕で隠した。それでも隠しきれなかった耳介に、エドワードの吐息がかかる。
「エマ、顔を見せて」
エドワードの低い声が甘い痺れを伴って、鼓膜を伝い、エマの胸に落ちた。その瞬間、体がびくりと跳ねる。それでもエマは頑なに首を横に振り続けた。
「なんで」
「むっ、無理よ! バカみたいに酷い顔してるの、分かってるから……」
「君の不細工はもう何度も見てきた。寝起きも泣き顔も腐るほど。今更どんな不細工がやってこようが引いたりしない」
「エドワード!!」
──── やられた!
反射的にそう思った時には、もう時すでに遅しだった。エマが勢いに任せて顔を上げた瞬間、腕を掴まれてしまったのだ。
エドワードの口角がにやりと上がる。この懐かしい物の言い方、そして表情は、まさにエドワードらしいものだった。
しかしこちらまで昔のように怒ってしまったのが運の尽き。エマはあまりの羞恥に顔をぐしゃぐしゃに歪めた。
「……嘘だ。酷くなんてない。昔も今も、エマは変わらず可愛いよ」
「素直に……喜べないわ」
「ごめん。君を揶揄うのが僕の生きがいみたいなものなんだ」
掠め取るようなキスをして、エドワードはふわりと穏やかな笑みを浮かべた。エマは暫く呆気にとられていたものの、ふぅと諦めたように息を吐く。
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