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「これからのことなんだけど……」
「うん」
「一度、私の両親に会いにきて。とても心配症なの。特にパパ」
「か、覚悟して行くよ」
「あなたのお母様のお墓に挨拶に行きたいわ。そしてあなたのお父様にもう一度お礼を言いたい。今度はエドと一緒に会いに行きたいの。あなたのこと、とても心配していたわ。お互い、言ってないことだってたくさんあるでしょう?」
エマは首を傾けてエドワードを見つめる。思わずしてやられたと眉をひそめたエドワードだったが、仕方なく微笑み一度だけ頷いた。
「エマ、これ」
エドワードは枕の下から1枚のブックマークを取り出した。それは手製の押し花。真っ赤な花が一輪、フィルムの中で美しい姿のまま眠っている。
「これ……」
「君がフローリーに渡してくれたアネモネ。ずっとこれを心の支えにに生きてきた。辛い時も苦しい時も、君の愛が僕を支えてくれていたんだよ」
エマも慌てて懐からブックマークを取り出した。変わらずストロベリーブロンドに輝く、エドワードからのクリスマスプレゼント。
エマはエドワードのアネモネにそれをそっと重ね、2人の手で大切に包み込んだ。まるで2人の愛を抱きしめるように。
「これからも僕はずっと、努力を惜しむつもりはない。僕には一生かけてこのアネモネを抱きしめていく覚悟がある」
覚悟の2文字がずしりと重く手のひらにのしかかる。エマもまた、理解していた。2人の愛をいつまでも大切に育んでいくためには、まだまだいくつもの山が待ち受けているということを。
それは時に、また2人を引き裂こうとするかもしれない。
エマは不安げに顔を上げる。しかし視線の先のエドワードの瞳はどこまでもまっすぐだった。曇りひとつない美しい瞳が、真剣にエマを見つめている。
「大丈夫。僕は必ず……いや、違うな。2人なら必ず、どんな困難も乗り越えられる。あの物語をいつか、どんな本にも負けないくらいのハッピーエンドで締めてあげなければ」
「……できるかしら」
「できるさ。君と僕なら。必ず」
「そうね……えぇきっと、ハッピーエンドにしてみせる」
2人は互いの手をぎゅっと握りしめた。
きっとたくさんの試練が2人を待っている。それでも2人で乗り越えると決めたのだ。
ずっとこのアネモネを抱きしめていくと、決めたのだ。
エドワードの手が、エマの頬へと伸びていく。優しく頬を撫でるその柔らかい感触に、エマは心の底から安堵と幸せを感じた。
“ 君を、愛す ”
それは2人が重ねた赤いアネモネに込められた花言葉。それをずっと抱きしめていくと誓い、どんな困難も2人で乗り越えてみせると誓った。
2人だけの、ハッピーエンドを目指して。
ベッドにそっと押し倒されたエマの体が、エドワードに優しく包まれた。
「……怖い?」
「えぇ……でも大丈夫。平気よ。あなたとなら」
「参ったな……君にはとびきり優しくしたいと願ったのに。そんな顔をされると……」
「されると?」
「……いや、きっと、優しくする。嘘じゃない。僕を信じて」
「えぇもちろん、信じるわ。あなたが大好きよ」
穏やかな笑みを浮かべるエマの上で、エドワードは顔をくしゃりと破顔させ、微笑んだ。
「僕も……君が大好きだよ」
エマのすぐ目の前で、白金の糸のようなプラチナブロンドがふわりと揺らぐ。それはエマの頬を優しく撫でた。
その柔らかな感触は、エマの緊張をそっと解いていく。その優しさを肌で感じたエマはゆっくりと、瞳を閉じていくのだった。
たとえどんな壁が待ち受けていようと、こんな嘘吐きな僕を君が信じてくれるというのなら。
僕は一生をかけて、君を抱きしめ続ける。
君の愛を
君の花を
きっと、ずっと、永遠に ────
嘘吐き王子はアネモネを抱きしめる
END
→あとがき
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