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そんなマシューの願いなど知るはずもない少女エマは、目的の場所、1番西側に位置する閲覧室へ向かった。そこで小さく区切られたスペースの一角に荷物を置くと静かに腰を下ろす。
開くのは医療専門誌。ペンとノートを用意し勉強を始める準備を整えたエマは、一度だけ窓から差し込む夕陽を眺め、ほぅ、と息を吐いた。
13歳でバートン校へ特待生として入学して早5年。エマは最終学年に突入していた。
広大でかつ多彩な施設を有するバートン校だが、彼女はこの美しい図書館と、その一角から見える夕陽が最も好きだった。
燃えるような赤とオレンジ。そこへ淡い紫が交差する空。この夕焼けを見ている間だけは何もかもを忘れられる。ただただ美しくて言葉すらも必要としない。
その日あった細かなイザコザでさざ波がたった心も、一度まっさらにリセットして綺麗に整えてくれるのだ。
「────よし」
小さく気合を入れると、少女は長い赤毛を1つに括りあげた。分厚い専門書をノートの隣に並べ、昨日の続き「免疫機器としての肝臓(2)」のページを開く。
そうしてそのまま、彼女の歳ではいささかディープ過ぎるであろう生命と人体の神秘の泉に、全身全霊でのめり込んでいくのだった。
10分後、いつも通り彼が現れるまでは。
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*パブリックスクール・・・13〜18歳の子供を教育するイギリスの私立エリート校の名称。日本で言う中高一貫校みたいなものです。
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