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図書館にもうひとつの靴音が響いた。エマそっくりの規則正しい足音。しかし違うのはエマのように静かではなく“我が物顔で闊歩している”という言葉がしっくりくるような音だった。
この音がすればいよいよ生徒は席を立つ。例の恒例行事まで後何秒といったところか。
綺麗に整えられたプラチナブロンドの髪を靡かせ、漆黒のコート片手にシワひとつないシャツと美しいスラックスで風を切る青年。
彼はいつもの場所で脇目も振らず専門書にかじりつくエマを見つけると、形の良い薄い唇をニヤリと上げた。
「やあ、ご機嫌いかがかなガリ勉庶民。今日も大好きなお勉強とは。殊勝なことだ」
カタン、とわざとらしい音をたて、席を2つ開けた隣に座る青年。エマはまたかと思いつつも頭の大半は肝臓でいっぱいだったため、あえて無視という方法をとった。
「まぁ勉強をして首席を取り続けなければ君は特待生から外されるんだ。そうなれば金のない貧乏ド庶民である君がこの由緒正しき伝統校に通えるはずもない」
「……」
「とはいえ君も一応我が校の生徒。A1-Levelが終わったとはいえ、A2-Levelが控えている。だから心の広い僕はある程度のところまでなら我慢してやろうと思ったわけだ」
「…………」
「しかし年頃の女の子が飽きもせず毎日毎時間図書館図書館。さすがの僕も本の虫に年がら年中目の前をブンブン飛び回られると鬱陶しくてかなわない」
「………………」
「そんなことではそのうち売れ残るぞ、エマ・シンプソン」
「……エドワード・スペンサー。私、いっつも思うんだけど」
エマはとうとう耐えかねて専門書を閉じた。朝昼夕と暇さえあれば図書館に来ていたエマだったが、この5年間、夕方の時間帯だけはこの高慢チキなおぼっちゃまのせいでまともに勉強ができた試しがなかった。
「あなたって、とっっっっても暇なのね」
「は?」
「こんなところで油売ってる暇があるならいっつもあなたを取り巻いている可愛いガールフレンド達とお茶でもしてきたらいいじゃないの。それとも何? おぼっちゃまはじいやがいないと女の子をデートに誘うこともできないのかしら」
「ハッ。自分が誘われないからって卑屈になるなよシンプソン。可哀想に。きっとお付き合いのひとつもしたことがないんだろう。仕方ないから僕の友人を1人紹介しようか?」
「結構よ。あなたみたいな幼稚な人間、タイプじゃないの」
ピシャリと言い放つエマ。エドワードのこめかみがピクリとひくついた。
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*Aレベル・・・日本でいう大学入試センター試験のようなもの。12年生と13年生の2回行われる。
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