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「もう結構。寮に帰るわ。本当あなたって高慢チキで嫌味ったらしくて最悪ね。一体どんな親に育てられたらこんな傲慢な人間に育っ……」
エマは突然鼻腔をかすめた清涼な香りに思わず息を飲んだ。勉強道具の片付けをやめ、そっと顔を上げる。
すると2つ隣にいたはずのエドワードがいつのまにかエマのすぐ隣まで移動し、その宝石のようなアイスブルーの瞳で真っ直ぐ彼女を見つめていた。
「なっ……!」
初めての出来事にガタリと音を立てて動揺したエマは後ろへと仰反る。
しかしかけらも表情を崩さないエドワードは、さも当たり前のように頬杖をついてエマを見つめ続けていた。
「なっ、な、何よ急に。庶民の貧乏臭がうつるから近寄りたくないんじゃなかったの?」
「……シンプソン」
「何?」
「聞きたいことがあるんだが」
「は? 何よ急に……一体」
「君、この冬のクリスマス休暇の予定は?」
────クリスマス休暇の、予定ですって?
エマはあんぐりと口を開けてエドワードを見返した。エドワード相手に二の句が継げなくなったのは初めての経験だ。
当の本人は今すぐ鼻をつまんでブンブン振り回してやりたくなるような澄ました顔をしていた。
白を通り越して青が透けて見えるような綺麗な肌、プラチナブロンドの髪は夕焼けに溶けてキラキラと輝き、切れ長の瞳にアイスブルーが静かに佇む。
赤毛で、肌は白いものの少しのそばかすが余計に悪目立ちしているエマとは何もかもが正反対。まるで美術品のようだとエマは思った。
その彼が、自分にクリスマス休暇の予定を聞くなど、訳が分からない。庶民のしょぼくれたクリスマスをネタにして楽しむつもりなんだろうか。ならばこの真面目くさった顔の意味は?
エマはまるで分からないことばかりで、珍しく口をもごもごとまごつかせた。
「なんだ。勉強のしすぎでついに頭がおかしくなったのか?」
「ちっ……違うわ。あなたの真意が分からなくて混乱してるのよ」
「真意?」
「私のクリスマスの予定を聞いて、あなたに何の得があるの?」
エドワードは一瞬目を瞠ったが、すぐにエマから視線を逸らすとふっ、とらしくない、柔らかい笑みを溢した。
「……気まぐれだ」
「はぁ?」
「この僕が世間話をしてやってるんだ。ありがたく会話を続けろよ」
常に冷静沈着で思慮深いエマが珍しく百面相で動揺する姿が面白くて堪らないらしい。エドワードは口元を片手で覆うと、遂にくつくつと喉奥を鳴らし笑いはじめた。
カチン。
エマの頭に明らかな苛立ちが生まれた。
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