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1章 何これ…
神様から造られたゲートをくぐると、虹色の光が周りを囲んでいてとてもきれいだった。
そしてなるの体にも徐々に変化が起きていたことに気付いた。
「…ん?俺こんなにふさふさの手してたっけ?おまけに、背が少し縮んでるような気がするんだけど。」
そうこう呟いている間にも、体の変化は収まらない。
顔の横にあった耳はなくなり、頭のてっぺんに猫耳が生えてきた。
続いてしっぽが出て両手は前足になり両手両足の指先はそのままで、肉球がついていく。
本物の猫のように猫背になることはなかったが、その状態で更に体が縮まっていき赤ん坊サイズとなった時、ゲートから出た先は水(?)の中であった。
(……あれ?これはどうなってるんだろう。
ゲートから出た所は水の中だというのに、苦しくない。……むしろ、とても心地良い)
目をうっすら開けると、小さくなった自分の体が見える。
それもおへそがある所にはひものようなものが繋がっていて、ちっちゃいち〇こが見えた。
(これはへその緒なのか?ってことは母親のお腹の中にいる赤ちゃんの状態なのか。
こんな風になってたんだなぁ)
両手を握ったり開いたりして動かしてみたり、足を動かそうと力を入れてみたらうっかりお腹のうち壁にぶつかって中が揺れた瞬間、女性の声と男性の声が響いた。
[あっ、あなた、今赤ちゃんが動いたわ!]
[おっ!本当か!!ちょっとお腹を触ってみても良いかい?]
[ええ。]
…お腹の中だから姿は見えてないけど、とても優しそうな夫婦みたいだ。
日本で住んでいた時の両親は、育ててくれた祖父母に聞いた限り、俺を生んで母乳を飲まなくなる時期が来たタイミングで離婚し、子供の俺を祖父母に押し付けて逃げていったろくでなしだと聞かされた。
物心がつき始めた頃には既に俺にとっては祖父母が両親のように思っていたし、いけないと言われる理由も一つずつ教えてもらったおかげで善悪を正しく知ることができたから、そういった面では恵まれていたんだなと今にして思う。
などと感慨にふけっている間に、気がつくとかすかに小さな光が見えてきた。
俺はもう出ても良い頃なのかなと感じて、光の方に頭を向けて光が漏れている隙間にねじ込むようにもがいて進んだ。
[アアアアアッ‼︎‼︎]
[頑張れ!リキめ‼︎]
外では苦しみに満ちた叫び声をだす母親と、必死に励ましてる父親の大声が聞こえて来た。
とりあえず狭いし早く出ようと更にもがき、頭のてっぺんが光の出口に入ろうとしている。
その間にも、耳を塞ぎたくなるような断末魔に似た声と大きな声が交互に聞こえてくるのがたまらないほどうるさいので、早く出ようと必死にもがいてた次の瞬間………
「ポン‼︎」
…と、勢いよく外に飛び出て外に用意されていたお湯の中に入って行った。
「…ッ‼︎‼︎⁉︎」
すぐさま抱えられ、俺は外の空気を吸って大声で叫んだ。
「オギャアーーー‼︎⁉︎」(あっづいーーー⁉︎)
熱湯だった…
え⁉︎何これ。赤ちゃんってこんな思いで出て来るの?たまたま俺だけこうなの?
なんか熱すぎて感覚は曖昧だけど、へその緒をチョキンッ!ってされたみたい。
痛みより熱さが勝ってたので分からなかった。
まだ目は開かないまま、柔らかい布にくるまれて運ばれていく。母親の元だろう
熱さも痛みもわりと早くひいてきたので、暖かい腕に抱えられてしばらくしたら、目がうっすらと開けてきた。
「初めまして。私たちの赤ちゃん」
優しい声…この人が母親だ。少し視界がぼやけているけど、笑いかけているのは分かる。
そしてもう一人、視界に入ってきた姿は恐らく父親だろう。
「生まれてきてくれて、ありがとうな。元気そうな男の子だ」
「あぅあーー」(こんにちは両親)
「見て、私たちの言葉に反応してる。この子、もしかしたらおりこうさんかもね。」
「そうだな。母さんみたいに賢い子に育ちそうだ。早速、この子にピッタリな名前をつけよう」
「そうね…一応2つ候補は考えていたんだけど、どれが良いか決められなくって、良かったらどちらかを選んで欲しいわ。」
「えっ?良いのか俺が決めても。」
「もちろん。あなたの子でもあるんだからちゃんと選んであげてね。
まず一つ目はラウガ…強い意志をもって生き抜いて欲しいと思ってこの名前を考えたの。
後一つはナルガス。荒々しさがある感じがするけど、心が優しい子になったら良いなぁって思って(喜)」
へぇ、名付けるってこうやって意味ものせてつけるものなんだ。
前世ではよく暇つぶしでスマホやパソコンのネット内で知った話だけど、親の好きなアニメのキャラネームとかを無理矢理漢字に当てはめてつけてたり、カナ文字の言語を漢字の読み仮名にして楽しんでいたDQN親ってのがいたらしいしな。
スマホの動画では多分、電鼠[ピ〇チュウ]って名前があった気がする……
そんな名前をつけられた気の毒な人ばかりが昔の世代にいたと言うんだから、聞いてるこっちは複雑な気分だよ。
その点、この親に至ってはとても思いやりがあって俺は好きだ。
どんな名前をつけられるにしても、この親なら自分をちゃんと見てくれるはず。
そう考えている間に、俺につける父名前を父親決めたみたい。
ラウガかな?ナルガスかな?
「よし決めた!今日からこの子の名前はナルガスだ。
今は北の猫軍が頻繁にこの東国へ挑発行為を繰り返して来て、一触即発の状態だと国王様からの使いから最近聞かされたからな。
生き残るだけならなんとかなるだろうが、すぐ殺されてしまうかも知れない。
だから、荒々しくも優しい性格の子になってくれた方が、味方してくれる連中が増える気がするんだ。」
「…そうね。前王様が統治されていた時は平和に暮らせていたけれど、今の王は猫族の民も奴隷にされている他の種族達と同様に、使い捨てする身勝手なお方だし。」
おいおい、赤ちゃんのいる前でなんつー物騒な状況をしゃべってんだこの二人は、怖くて泣きそうなんだけど。
「うう~~…」 (…あ、思わずグズっちゃった)
「あらあら、ごめんね?嫌な感じの話をしちゃってて。
…ねぇ、あなた。この子の名前はあなたが言う通りナルガスにしましょう?何があっても生き残れるように…」
「ああ、それに賛成だ。
その代わりやんちゃが過ぎる子になりそうな予感がするがな(笑)」
「フフフ。世話が大変になりそうね」
いやいや、お二人さん?俺これでも品の悪いことはした事ありませんよ?怒ってても冷静に生きてましたよ?………多分できてたと思う。
そんな二人の会話を聞き、だいぶん目が見えるようになって来たから俺は、二人を見て「あうあう」と言って抗議するように言葉を出してはみる。
こんなやり取りがこれから続くんだろうなと嬉しい気持ちで考えていた時、不幸が訪れる事になった。
少し遠くからだろうか、大きな爆発音と共に人々の悲鳴が聞こえて来た。
両親は慌てて立ち上がり俺を抱えてながら奥の扉を開けて隠れるように伏せて、父親が窓から外の様子を見る。
しばらく父が窓から静かに覗きこんでいるとそこには、異形の体つきをした大群を従えて先頭に立って歩いている猫族がいた。
なんかあれラノベアニメとかによく出てくるモンスター、ゴブリンってのとオークってのに似てる気がする。
なんで、猫族が人間のテイマーみたいにモンスターを連れて歩いてるんだ?
怖さよりも不思議な気持ちが働いていたぶん、泣き叫ぶことがなかった俺。
幸い、モンスターの大群が家の前を完全に通過したのを確認して安堵する両親。
「まさか、北の猫軍はモンスター達を従わせるようになったのか…もはやこの国を出て、ひっそり暮らすしかないかもしれん。」
「そうね…この子も生まれたばかりだし本当はこのタイミングで出るのは危険な気がするけど、モンスターが相手では一般市民の私たちでは手も足もでないものね。
すぐに準備をしましょう」
そう言って母が立ち上がるとくらりとよろめき、倒れる寸前に父が抱き止めて防いだ。
「無茶をするな。生んですぐなんだぞ?」
「そうだけど、今準備して出なかったら私たちは惨殺されるかも知れないのよ?大人しく殺されるのを待つわけにはいかないんだから。」
そう言って強引に立ち上がると、俺を片手で抱えながら支度していく。
父も小さくため息をつきつつ、一緒に準備しながら会話する。
「全く、君は思い立ったらすぐ行動に移すなぁ。まあそんな性格だから惚れたんだけど。」
「…んもう、こんなときに口説かないでよ(照)」
羨ましいほどののろけ夫婦だな。
子供心で見てると不思議と嫌な気持ちではない。
時を同じくして、ここは東の王城都市[ドラルト]城内。
数多のモンスター達を引き連れて怒りの形相を浮かべながら歩く北の国王は、モンスター達に蹂躙されていく兵士や官僚達の死体を気にする素振りもない。
そのまま進んでいくと、玉座の間への扉をモンスター達に壊すように命令したら、勢いよくそばにいたオークが殴り飛ばしてブチ破った‼︎
「ヒィーー⁉︎も、モンスターの大群だと‼︎兵士や官僚どもは何をしているのだ無能どもめ⁉︎」
「ドラルト10世…」
「ノーガルド10世⁉︎こいつらは貴様のモンスターどもか!なんの真似かは知らんが、笑えん冗談ではないのか⁉︎」
酷く怯えながらも、気丈に振る舞おうと必死のドラルト10世。
「…黙れ。もはや貴様の代から後はない!今すぐ滅べ。」
「ま!待てノーガルド10世。落ち着いて話合おうではないか‼︎
だから早く、モンスター達を下がらせてくれ⁉︎」
「…やれ。」
「ギキィ〜‼︎」
一匹のとてつもなく素早いゴブリンが、一瞬でドラルト10世の懐に飛んできたと同時に、彼の首は一瞬で切り落とされ即座に事切れてしまう…
「こんな奴が牛耳っている町に、同じ者が絶対現れないとも限らん‼︎
ここにいる全てのモンスター達よ!この国に暮らす猫族どもを、一人残らず滅ぼせー‼︎」
もはや冷静に周りを見れていない程に、感情に支配されていたノーガルド10世。
過去にドラルト10世との間で何があったのか、今や当人しか知る者はいなくなった…
主の命により、凄まじく素早いゴブリン達が先頭に立って、場内にいる者を根絶やしにした後も王城都市に暮らす全ての民を殲滅する為、全てのモンスター達が暴れ始めることになった。
まるで主の気持ちを、代弁するかのように…
その頃、この町リンドラルに住むナルガスの夫婦が住む家の中…
無事に支度が終わり、父が先に裏口から外に出て周りを警戒しながら手招きする。
俺を抱いた母もゆっくり出て来て、父がいるところに駆け込んでいく。
大群が向かった方向とは逆の道には、大きな爆発でもあったかのように瓦礫と化した民家がたくさんあった。
悲しみのあまり途方にくれる一人の男性の手には、恐らく既に息を引き取ったであろう女性らしき亡骸。
他にも、赤ん坊と夫の無惨な亡骸の前に立ち尽くす母親等が所々に見えていた。
転生して新たな生を受け、周りの状況を理解している俺はあまりのショックな光景を目にし、赤ん坊のままだが放心状態になっていた。
そんなとき、更なる悲劇が訪れた。
ここ、東の国の城から激しい音が聞こえて来たようだ。
両親が振り返ってみてみると、立派なお城が跡形もなく消えていてそこからモンスターの大群が勢いよく民家を壊しながら押し寄せて来た。
両親は即座に出入り口の門まで急いで走り、周りの何人かも一緒に走り始めた。
モンスター達の足は驚くほど速かったので一人、また一人と殺されていく。
俺は反射的に母親の体に頭を屈めて恐怖を無くそうとしたけど、気持ちが隠せない赤ん坊の俺は、気づいたら大声で泣き叫んでいた。
両親も必死に逃げているので、こちらに構ってる余裕がない。
ようやく門を過ぎようとした時、一匹のゴブリンが猛スピードで追撃してきた。
「俺が時間を稼ぐ!その隙にナルガスと遠くに行け‼︎」
父がその場にとどまり、ゴブリンの両手をつかんで足止めをする。
「嫌っ‼︎できない!」
母も慌てて止まるが、父が怒声をあげる
「ここで二人を殺させたくねぇんだよ‼︎ナルガスと一緒に早く行け!生きるチャンスを無駄にするな!」
(…⁉︎待ってよお父さん!)
大声で叫ぶ赤ん坊の泣き声が、周りに響く。
「心配すんなナルガス。
お父さん、これでも結構強いんだぞ。だからお母さんと待っててくれ。」
それは嘘だと俺にも感じていた。
父親は笑いながら俺達を見ている…
母親は泣き顔に崩れながら、父を見ていた。
「母さん、二人が逃げたら俺も生き延びるから、今は逃げることだけ考えろ。
ナルガスを頼む‼︎行け!」
母は悲しみをこらえながら、言われたように急いで俺を抱え直して全力で逃げた。後ろを振り返りながら…
俺を抱えたまま必死に森の奥まで逃げた為、息も絶え絶えな母がたどり着いたのは、うっそうと生い茂った草木の奥にポツンとある古い木屋だった。
部屋は埃まみれではあるが、どこも痛んでる様子がなく少し掃除すれば暮らせるだけの広さであったので、ひとまず扉の近くで母は腰を下ろし、虚ろな目で空を見上げていた。
俺は、父の後ろ姿を思い出して泣き始めたので、母はそんな俺を無言で優しく抱き締める。
それからどれ程時間がたったのかは分からないが、日がもうすぐ暮れかかっていたのかカラスのような声の鳥が鳴き始める。
泣き止んだ俺を、母は優しく見つめながら言った。
「ナルガス。あなたがどんな生き方を選んでも、私はあなたの味方だから大丈夫よ?辛いときは、素直に言いなさい。」
前世で両親から見てもらえなかった俺には、とてつもなく嬉しい言葉だった。
安心したらまた泣き出してしまったので、母は優しくあやした後、上着をめくってそのきれいに整った乳房を表に出し俺に飲ませてくれた。
大人の男なら単なる発情で触れたがるが、赤ん坊になっている時は泣き疲れてお腹が空いてしまう為、飲みたくて押さえていた。
これからは母と二人で暮らすが、心の奥では父と対峙したゴブリンをいつか自分の手で殺そうと、俺は幼い赤ん坊の内に覚え始めていた……
神様が俺を送り出す前に見せていた表情の意味も、今は少しだけ理解できた気がする。
そして、ナルガスの心に復讐心が宿る瞬間、彼のステータスに<復讐者>の称号がついた事に気がついたのを、後に彼は知ることになる。
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