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とある町の店先に、顎を指で撫でながら悩むなんとも怪しげな男が一人。
「うーん......じゃあ栗まんじゅうを箱で。いくらだい?」
「銀貨一枚だ。......もしあともう一箱買ってくれるってんなら、それも含めて銅貨九枚にまけてやってもいいぜ?」
「売れ残りの商品を上手いこと売り付けようって腹が見え見えだぜ?......だけどまぁ、買った!!」
「お!にいちゃん気前いいねぇ!あいよ!栗まんじゅう!」
結局、男は人が多数行き交う市場の中、見るからに人足の少ないその店で、これでもかという数の栗まんじゅうを買った。目つきは鋭いが整った顔立ちに髪は黒く短髪で、動きを妨げないようにするためか適度に簡素な服を身につけている。そんな男の中でも、一際目を引くのは腰に帯刀している一振りの刀。黒漆の塗られた鞘を一見するだけで、その刀が一級品であることは容易に理解できた。
「あむ......ん?んー。......あんまり、うまくねぇな」
店から離れた場所で一口齧り、口から出たその言葉。これが店前だったなら、もれなく店主からの罵倒が待ち受けていただろう。ただ実際、あまり味わいの深いものではなかった。
『......ッ!!............けッ!!!』
「......んぁ?」
近づいてくるその声を、川辺に腰を落ち着かせていた男の耳は拾った。その声はとても幼く、何かから逃げているものだ。
「......けッ!どけッ!!はぁっ!!はぁっ!!」
「(......何をそんな慌ててんだ?)」
寝たフリでその場をやり過ごしてみれば、そいつは男の頭上を勢いよく走り去っていった。ここは少ないとはいえ人通りもあり、周りにいた人間もそいつの姿に驚いている。
まぁいいか、と男は寝たフリを解こうとするが、開きかけた目は再び閉じることになった。
「待て小僧!!にがさねぇぞ!!」
「追え!!追えぇぇ!!」
「ッ!?(あ、あっぶねぇ!!)」
走り去った幼い声の持ち主の後を追うように、ざっと六人分であろう足音が頭上を通り過ぎたからだ。
「なんなんだよ、ったく。煩くて昼寝もできやしねぇ。」
不機嫌そうな顔を隠そうともせず、男は頭を上げて座り込んだ。けれど男の抱える不満には、昼寝を邪魔されたことへの恨みの他にもう一つある。
「はぁぁぁ......なんで俺はこんな甘いかねぇ」
先程走り去っていった六人衆、そしてその先にいる少年。こういう時の男の勘はよくあたり、それを放っておけない自分への不満でもあった。
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