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「はぁっ!はぁっ!!はぁっ!!!」
少年は、目的の場所に必死で走っていた。その手には溢れんばかりの食べ物を抱えて。
「(みんな、待っててくれよ!今日はたくさん手に入ったんだっ!今日は腹一杯、飯が食えるぞ!!)」
よくみれば、少年の姿はとても健康的とはいえなかった。痩せかけた手足、所々穴の開いたみすぼらしい服装。
どう見ても、日々を楽しく過ごす子供の姿ではなかった。
「はぁっ!はぁっ!!(あと少しッ!あと少しだッ!)」
絶対に腕の中にある物を落とすまいと、必死に腕を固定する。入れ物も何も使わずそのまま抱えて走っている少年の視界には己の足元は映っていない。それでも躓くことなく走れていたのは、一重に必死さからくる集中故であろう。
「(もうすぐ、もうすぐでッ!」
「にーちゃ!!」
「なッ!!?!馬鹿ッ!!!外に出てくるなってあれほど!!......ぐわっ!?!」
少年は、視線の先に立つ自身より一回りほど小さい子供の姿に気を取られた。気を取られたということは、さっきまでの集中力が途切れてましったということ。
いくら気丈に振る舞おうと、その体はまだ子供。一度崩したバランスを立て直すことなどできず、さらに腕には大量の食べ物。
結果、少年はゴールを目前にして地面に倒れた。
「にーちゃ!!」
「来るな!!早く中に戻れっ!!」
駆け寄ろうとする子供に怒声を浴びせ、それでもその子供のために必死で地面に散らばった食べ物を回収する。
だが、無慈悲にも少年の頭上に迫る巨大な手。
「ぐッ!!?!」
「捕まえたぞ!!」
本当に、あと少しの時間さえあれば逃げ切れていたというのに。少年の奮闘も虚しく、自身を追ってきた大人たちによって地面に押さえつけられてしまった。
「くっそ!離せよっ!!」
「暴れるなっ!!もうお前には何も出来んのだ!!」
「言い訳は役所で聞く、せいぜい罪の重さを噛み締めていろ!」
「っ......。」
少年は、半ば諦めかけていた。生きるためとはいえ物を盗むことが悪いことだということを、少年自身が理解していたからだ。だけど、金を得ようにも子供を働かせるような物好きな場所などどこにもなく、運良く働き口を見つけた少年の友人は全員帰ってはこなかった。だから、生きるためには盗むしかなかった。
「(なんでっ!俺たちがこんな目にっ!!......合わなくちゃいけないんだよ......。)」
でも、もうどうすることもできない。大人の言う通り、今の俺には何も出来ないのだから。
涙を流し、絶望に沈みかけたその瞬間。少年には、僅かな希望が与えられた。
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