Saturday night

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「挨拶……。そうだよね、わたしもそちらの実家に……」 「まずは未央の実家だろ。旭川(あさひかわ)だったよな?」 ぴしゃりと遮られてしまったので、「うん」と頷いておく。こういうときって、女性の実家へ挨拶するのが先なんだっけ。どこかでそう聞いた気がする。 「航希の実家は市内だもんね」 「ああ。北区だからそんなに遠くない。未央の実家には、せっかくだから泊まりがけで行きたいと思ってるんだけど」 わたしが高校卒業まで過ごした旭川は、札幌から高速道路を使って2時間ほどの距離にある。冬は雪深く夏は蒸し暑い、そんな街だ。年末年始に帰省したきりだけれど、結婚の報告がしたい、なんて切り出したら、お父さんもお母さんも驚くだろうな。 「うん。少し行ったところに温泉もあるし……」 そう言いながら航希の方を向くと、ばっちり目が合ってしまった。思わず目を逸らしたわたしの頬に手を伸ばして、「どうして逸らすんだよ」と彼が笑う。 「なあ、未央」 ふいに航希が運転席から身を乗り出して、わたしの身体を優しく抱き寄せる。少し汗ばんだTシャツに、シトラスの匂い。それを感じて胸が大きく跳ね上がった瞬間、「おまえのこと、すげえ抱きたい。家まで我慢できないって言ったら、怒る?」と掠れた声で囁かれた。
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