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Saturday night
キスなんて数え切れないくらいしているのに、恥ずかしさと嬉しさと、際限なく膨れ上がっていく航希への想いに胸が震えた。
夕日は完全に沈んでしまって、水平線だけがほんのりと明るい。海沿いの道路を車が何台も通っていくけれど、この駐車場には相変わらず、わたしたちしかいない。
「……夕日の写真、撮ろうと思ったのに」
心のうちを悟られたくなくて、わざと不満げにそう口に出す。そんなわたしの気持ちを見透かしているかのように、航希が軽い口調で、「いつでも連れてきてやるよ」と笑った。
──航希が好き。どんな言葉でも足りないくらいに。これからずっと、想像もできないくらい長い間、この人と一緒に生きていくんだ。
運転席の窓を半分くらい開けてタバコをふかす航希の横顔を、何度も盗み見る。好きっていう気持ちが溢れ出して胸が苦しい。ああ、触れたいな。突然抱きついたら、びっくりしちゃうかな。
「未央、あのさ」
「えっ」
見つめていたの、バレた?恥ずかしさで顔が熱くなって、わたしは慌てて前を向く。
航希はわたしの様子を気にかけることもなく、携帯灰皿にタバコをすり潰しながら、「おまえの実家に挨拶に行きたいんだけど。ちょうど、夏季休暇の時期だし」と小さな声で言った。
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