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──Side 航希
気が強くて怒りっぽいくせに、こういう雰囲気にはめっぽう弱い。それが、世界一可愛い俺の未来の奥さんだ。
「えっ、ちょっと……なに言ってるの。だって、昨日も……」
「いつも言ってるだろ。俺は毎日でもいいって」
甘い響きを持たせながら、わざと低い声で囁きかける。未央が俺の背中に躊躇いがちに腕を回しながら、ぴくっと震えたのが分かった。
よし、あともう一押しか──「未央は、家まで我慢できる?」と頭を優しく撫でながら、耳たぶにキスを落とす。ほっそりとした滑らかな首筋にも。そうすると、未央は「あっ」と高い声を上げて、俺の身体にぎゅっとしがみついてきた。
「俺、おまえの首筋好きなんだよ。綺麗で、色っぽくて」
そう言って、何度もそこに唇を押し当てる。首筋から未央の愛用している香水が色濃く香って、俺の情欲をどんどん掻き立てていく。……思えば、このすっきりしたフローラルの匂いにいつもやられている気がする。なぜだか知らないけど、無性にエロい気持ちになるんだよな。
「ね、航希……まさか、このまま……?」
すっかり色を含んだかわいらしい声でそんなことを言われてしまって、想像もしていなかった状況を思い描きながら、「未央はこのまましたい?」と聞き返してやった。そうしたら、「そんなわけないでしょ、バカじゃないの」と刺々しく返される。
「だよな。こんな日なんだし、ゆっくり抱きたい。できれば朝まで」
「もう、ほんとに……バカじゃないの……」
その声に勢いは全くなくて、むしろ「いいよ」と言われているような気さえした。逸る気持ちを抑えて、できるだけ優しく「いい?」と訊くと、未央は小さく頷いてくれた。
──この瞬間が本当に堪らない。こんな未央を見られるのは俺だけだ。これから先も、ずっと。
ここに来るまでの間、海の近くに小奇麗なホテルが建っているのを見た。同棲を始めてからは家ばかりだったし──初心に返って、ああいうところでするのもいいかもな。それを見たとき、俺は密かにそんなことを考えていたのだった。
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