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Saturday morning
ドライブに行かないか──そんな提案をされたのは、7月のある土曜日の朝だった。
起きた瞬間から蒸し暑く、扇風機じゃ全く歯が立たない。仕方なくエアコンに頼ることにした、そんなふうに始まった一日。汗でベタベタになった身体をシャワーでさっぱりさせてリビングに戻ると、航希がやたら真面目な顔をしてスマホを眺めている。
「どうしたの、難しい顔して。浮気でもしてるの?」
濡れた髪をタオルで拭きながらいつものように軽口を叩くと、ものすごい顔で「ふざけんな、俺がそんなことするはずないだろ」と言われてしまった。──そのセリフ、1年前のアンタに聞かせてやりたいわ。そうは思ったけれどケンカになるのは嫌なので、「はいはい、ごめんね。航希は一途な男に生まれ変わったんだもんね。わたし一筋だもんね」と返す。
「未央、今日なんだけど」
「うん」
「ドライブに行かないか」
「ドライブ?どこに」
「どこだっていいだろ。行くのかよ、行かないのかよ」
──もう、なんなのよ。難しい顔をしたり怒ったり。気難しいところがあるのは知っているけど、今日は特にひどい。暑すぎるせいだろうか。
「こんなに暑いのに?どうせ行くなら涼しいところにしない。ほら、海とか」
「……出るのは夕方だから、涼しくなってるだろ」
「夕方?なんでまた」
「いいから黙ってろよ、おまえは」
航希は不機嫌そうにフンと鼻を鳴らすと、「俺もシャワー浴びてくる」とソファーから立ち上がって、リビングを出て行ってしまった。
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