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遮るものがなにひとつない大海原を、オレンジ色の夕日が染め上げていく。その光景につい見入っていると、航希が「あのさ」と気まずそうに口火を切った。
「なに?」
「えっと……ここ、すごいよな。夕日が綺麗なスポットで有名らしくて」
航希はサングラスを外すと、ダッシュボードの上に置いた。さっきからどことなくそわそわしていて、左手に持ったタバコの箱を親指で何度も開け閉めしている。
「そうなんだ。天気がいいから、なおさら綺麗だよね。夕日が見たかったの?」
「ああ……」
わたしの問いに生返事をして、夕日には目もくれずタバコの箱を忙しなく開け閉めしている。──本当にどうしちゃったんだろう。何か言いたいことでもあるの?わざわざ1時間以上かけて、海までドライブに来たりして……。
「タバコ、吸いたいなら吸ってもいいよ?ていうか、外出てみようよ。写真撮りた……」
「未央」
ドアを開けようとしたわたしを制すように腕を力強く掴んで、航希がもう一度、「あのさ」と呟く。
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