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「ゆうちゃん」
そう私を呼ぶ声が聞こえ、私は思わずその声の方を向いた。
「恵美子」
そこには、幼いころの、小さな恵美子の姿があった。それに私は、また驚いた。
あたりには提灯がさげられ、石段には出店が所狭しと並んでいた。あたりには、大きな声を出しはしゃぎまわる子供たちの姿。
私は幼い恵美子と、そしてその夏祭りの風景を交互に見つめた。
「どうしたの?」
そう、幼い恵美子が私の顔を覗き込んできた。
「いや」
周りの景色に驚き、上手く言葉が出てこない。
「ゆうじー」
今度は目の前に松原の姿があった。今の小太りのおじさんの姿ではなく、幼い、小学校くらいの姿で。
「金魚すくいしようぜー」
「いくー」
恵美子は松原の声に、嬉しそうに答え、そちらに向かって走っていった。
「ゆうちゃん、早く」
恵美子が手を振り、私を呼んでいる。
「うん、今行く」
自分の発した声はいつもより格段に高く、そして幼かった。
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