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あんな人間誰も取り扱えない。
(アイツ…頭おかしい…)
出来る事なら柊介に伝えたい。
自分の元に来いと安全だと、教えたいが、誰も居ない廊下に一人。
(何だよ、…クソどもが…)
結局自分に何も出来る事は無いと気付いた篠田は俯いた侭、ぎりっと奥歯を噛み締めた。
*****
例えば、手を繋ぐ、とか。
「椎名、あの…」
「ねぇ、先輩。寒いから手ぇ繋がない?」
「…おう」
抱き合う、とか。
「ぐふっ…!!!」
「あ、ごめん、ちょっと勢い良かったみたい」
「背後から激突するの、いい加減辞めろよな…」
キスをする、とか。
「………」
「あはは、先輩すっごい固くなってる、もっとリラックスしてよぉ」
「い、いいから、するならさっさとしろよっ!」
セックスを、
(いや…まだ…)
流石にそこまでは突き進めない、勇気が出ない。
椎名の告白に答えて一ヶ月。
無事俺はアイツとお付き合いを始めているが、取り敢えず希望していたデートなるものもした。
クリスマスも、大晦日も、正月だって。
やたらと引っ付きたがる椎名を何とかあやしつつ、それなりにやっていけていると思う。
と言うのも、決して急かさないし、焦らせない椎名の我慢強さが大きいと思う。
学校が始まってからも、緩やかな付き合いは続き、不安を一応椎名へと吐き出してみた。
「は?何それ」
「い、いや、だからさ…お前に色々我慢、させてたり、とか、思ったんだけど…」
プラトニックなお付き合い希望とかだったら、別にいいが、健全な男子高校生。それなりに前は遊んでいたとも聞いたし、この現状に満足しているのだろうか、と言うそれだ。
くそ程寒い屋上から移動した、誰も使用していないと聞いた会議室。
そこで相変わらず俺の作った弁当を口いっぱいに頬張る椎名は一瞬きょとんとした後、ぷっと噴き出す。
「あはは、先輩そんな心配してたんだぁ」
そりゃするだろう。
人間なんて移ろい易い生き物だ。
篠田と佐藤だって、最近上手くいっていないと、知りたくもない情報が入ってきたばかり。
明日は我が身、とは思いたくはないが不安は拭えない。
けれど、
「俺は大丈夫だよ」
誰もが見惚れる笑顔でそっと俺の頬を撫でる指。
ほっとする暖かさと優しい仕草に、ぐぅっと息が詰まりそうになる。
こんなに扱いにくくて、面倒くさい俺をこんな風に甘やかすコイツはどこまでも優しい、と思う。
どっちが年上だか分からなくて混乱しそうになる時もあるが、あの時椎名を離したく無いと思ったのは紛れもない事実。
「俺は先輩の事取扱に注意して大事にしてるからね」
ふっと嫌味臭く笑うこの顔だって、もうきっと手放す事は出来ないだろう。
「…宜しく頼む、からな」
「任せといてよー幸せにするからね」
甘い卵焼きを食べる椎名はその眼を細めた。
取扱注意なもの程、大事に。
わかってる、当たり前だろう?
決して逃げないように、逃げ場を壊して、そこに留まり続ければ、壊れないのを俺は知ってるんだよ、先輩。
でも、使わないと壊れるかもしれない。
だったら、取り扱うのは俺一人でいいでしょ。
(本当、先輩ってば、可哀想ー)
弁当箱の最後の一つの卵焼き。
一口で食べてしまえば、それは俺のもの。
終
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