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睦言
その日、仕事を終えたクリストファーは自室の前に真っ白な制服を発見して密やかな笑みを漏らした。世界中の海を渡り歩く大型客船『Queen of the Seas (クイーン・オブ・ザ・シーズ)』の船内である。
壁に背中を預け、些か不機嫌そうに腕を組む男の名は、マイケル。この船のキャプテンであり、クリストファーの恋人だった。
「こんな時間にそんな場所に立ってると、クルーに揶揄われるぞ?」
歩み寄りながらクリストファーが言ってもマイケルはちらりと視線を向けるだけで、何も言わずに部屋のドアをコンコンと拳で叩いてみせた。入れろと、そういう事だろうか。
僅かに肩を竦めたクリストファーがドアを開ければ、本人よりも先にマイケルはその躰をドアの隙間に滑り込ませた。ドアが閉まると同時に、不機嫌な表情そのままの声がクリストファーの耳朶を叩く。
「四分二十三秒の遅刻だ」
腕時計へと視線を落とした恋人の姿に、クリストファーは苦笑を漏らす。まさかマイケルが本当に制服のままやってくるとは思ってもみなかった。
この日のマイケルの終業時間は待ち合わせの時間ギリギリで、着替えを考慮すれば少しくらいの猶予はあるだろうとクリストファーは予想していた。だから同僚のちょっとした愚痴に付き合ったのだが…。
「悪かったって。俺はてっきりお前が着替えてくるものだと思ってた」
するりとクリストファーの腕がマイケルの首筋へと絡みつく。さほど身長の変わらない二人は、今にも唇が触れそうな距離で見つめ合った。
「拗ねるなよ、テゾーロ?」
「こういう時ばかり調子の良い…」
眉間に皺を寄せながらも、些か頬の赤い恋人にクリストファーは口付ける。ちゅっと音をたてて離れた唇に、ますますマイケルの頬は赤くなった。
「クリス…」
「明日には噂が広まるな」
噂…と言ってもただクルーたち身内での事ではあるが、だからこそ噂はたちどころに仲間内の間を駆け巡る。船のような閉鎖空間では、噂も少ない娯楽のひとつだ。
「別にもういい。それに、今日は特別な日だからな」
「特別ね…。誕生日なんて堂々と休暇を取る以外に意味なんてないと思ってたけどな」
「その割に仕事をしてるじゃないか…」
「お前の休みに合わせたのに拗ねるなよ」
未だ遅刻を根に持ったように囁くマイケルの頬にキスをして、クリストファーは恋人の躰を軽々と持ち上げた。さっさと部屋を横切り、寝台の上へと丁寧に降ろして囲い込む。いつものマイケルならば、制服が皺になると眉を顰めるところではあったが、今日は何も言う気配もない。その理由は、クリストファーが一番よく知っていた。
それはつい一週間ほど前の出来事。
そろそろ誕生日だからと、マイケルはプレゼントに欲しいものはあるかと聞いてきた。それに、クリストファーは『キャプテン様』と答えたのだ。
「まさか本当に制服のまま来るとはな」
「ッ! お前が言ったからだろ…っ」
まったくもって素直で真面目なマイケルらしいと、そう思う。腕の中で顔を真っ赤にして視線を泳がせるマイケルを、クリストファーは愛し気に抱き締めた。
「まったく、うちの王子は可愛らしくて困ったものだ」
「我儘な姫の望みを叶えてやったんだ、感謝しろ…!」
「くくっ、それは光栄だ。もちろん、優しい王子は俺を満足させてくれるんだろう?」
クリストファーの腕の中で、マイケルは僅かに身じろいだ。窮屈そうに腕を伸ばしてクリストファーのタイを抜き去る。次いでベストのボタンに指を掛けるマイケルを、クリストファーは大人しく見下ろしていた。
「クリス…、ちょっと退いて…」
軽く肩を押すマイケルに、クリストファーは上体を起こす。寝台の端に片膝を掛けたまま躰を起こせば、自らも起き上がったマイケルに服を脱がされる。
露わになった肌に無数に残る傷跡を、マイケルの舌先が辿った。
「ん…っ、アモーレ…愛してる…」
「俺も愛してるよミシェル」
こげ茶色の髪を優しく撫でながら、クリストファーはマイケルにされるがまま服を脱がされる。
やがて腕を引かれ、寝台へと倒れ込んだクリストファーをマイケルは背中から抱き締めた。耳元に触れた唇で小さく囁く。
「生まれてくれて、無事でいてくれてありがとう、クリス」
うつ伏せのまま穏やかな声を聞いて、クリストファーはごそりと寝返りを打つ。すぐ目の前の、見下ろすマイケルの瞳がとても優しい色を浮かべてクリストファーを映し出した。
「来年も、その次の年も、ずっとその先も…、この日にありがとうって言わせてくれなかったら拗ねるからな」
「くくっ、キャプテン様にそんな事を言われたら逆らえないな」
「当然だろう。船長命令は絶対だからな」
白い制服を身に纏い、噛みつくようなキスをするマイケルを、クリストファーは寝台の上で受け止める。頗る男前なその顔に、思わず見とれてしまいそうだった。歯列を割り開いて口腔へと入り込んだ舌にくまなく粘膜を舐られる。絡めた舌先をきつく吸い上げられてクリストファーは唇の端から吐息を漏らした。
「は…っミシェ…ル…、良い…」
クリストファーの手は、上着ではなくベルトへと掛かった。唇を合わせたままベルトを抜き去り、ジッパーを下げると真っ白なスラックスを引きずり下ろす。
「…せめて上着くらい」
「待てない。キャプテン様の太いペニスで早く尻の孔を抉られたい」
「ッ…お前はもう少し恥じらいを覚えろ!」
とは言いながら、今にもはち切れそうなほどのマイケルの昂ぶりがクリストファーの手の中にはある。緩く扱きあげるだけでピクリと震える雄芯にクリストファーは喉の奥を鳴らした。
「こんな事ならお前にも後ろでたっぷり気持ち良くなれるように仕込んでおくんだったな。そうすれば俺の気持ちも少しは理解できたんじゃないか?」
「出来るかッ! 俺はお前ほど節操なしじゃない!」
「どうだろうな。何なら今からでも気持ち良くなれるようにしてやろうか?」
ゆっくりとクリストファーの手がマイケルの雄芯の奥、双丘の蕾へと伸びる。硬く閉じた襞を指先で軽くつつけば、マイケルの腰が僅かに引けた。
「クリスっ…馬鹿な事をするな…!」
「そうだな、さすがにこのままじゃ気持ち良くなる前に痛くてどうしようもなさそうだ」
そう言って、クリストファーはあっさりと手を引いた。明らかにほっとしているマイケルを下から見上げ、だがクリストファーは再び握り込んだ雄芯を今度は容赦なく摺り上げる。
「んッあっ、待っ…クリス…!」
「待たない。一度吐き出しておけよ。今夜は嫌ってほど啼かせてやる」
「ァッ、ああっ、駄目だ…出…るッ」
クリストファーの躰を囲うように寝台へと腕をついたまま、マイケルはあっさりと白濁を吐き出した。腹の濡れる感触ににやりと口角をゆがめ、クリストファーは散ったばかりの白濁を掬い上げる。
ずるずると寝台の上をずり下がり、クリストファーはマイケルの脚の間へと肩を捩じ込ませた。
「な…ッ!?」
「いい子だミシェル。そのまま大人しくしていろ」
欲望を吐き出してもなお緩く硬度を保ったままのマイケルの雄芯を、クリストファーは躊躇いもなく銜え込む。先端を舌で押しつぶせば、僅かに残った残滓が舌先に微かな苦みをもたらした。
「っぅ、クリス…」
弱々しく名を呼ぶマイケルをちらりと見上げながらも、クリストファーの手が止まる事はなかった。白濁を纏わせた指をするりと双丘の合間に伸ばし、慎ましやかに閉じた蕾をゆっくりと解していく。
「嫌だ…、それ…っ、あッ、んっ」
たった一度だけしか使ったことのない秘部は、どうやら快楽をしっかり覚えているようだった。時折マイケルの口から零れ落ちる嬌声を満足げに聞きながら、クリストファーはあっという間に二本の指を後孔へと飲み込ませた。
「ぅく…、んッあっ、中…駄目…っだ」
「気持ち良いだろう?」
きつく指を食む媚肉を少しだけ強引に抉ったクリストファーの指先は、屹立の裏にあるマイケルの敏感なしこりをしっかり捉えていた。指の腹で僅かに擦り上げるだけで、マイケルは幾度も反応を示す。
やがて寝台の上へと突っ伏したマイケルに、クリストファーは短く喉を鳴らした。
「どうしたミシェル。気持ち良いか?」
「っ喋んな…ぃで、また…出…っぁく、ん…ッ」
「たっぷり吐き出せよ。飲んでやる」
くつくつと喉を鳴らし、クリストファーはマイケルを追い上げていく。再び質量を取り戻した雄芯をクリストファーはべろりと舐め上げた。
「ひっあッ、あっ、そっ…なん…でッ」
「ココが、良いんだろう?」
指の腹に当たったしこりを刺激すればマイケルの太腿はぶるぶると震えた。今にもはち切れそうな雄芯を、クリストファーは再び口腔へと迎え入れる。もはや力も入らずに顔の上へとぺたりと乗ったマイケルの腰を、クリストファーは片手で軽々と支えながら刺激を与えていった。
「ぅッ、やぁ…っ、あっあぁ…っん、駄目…、出っ…る…、ッ―――…!」
びくりと、ひと際大きく腰をはねさせたマイケルの雄芯から、生温かな体液が口内へと吐き出される。ゴクリと、クリストファーは喉を鳴らして精液を飲み下し、なおもマイケルの後孔を指で弄ぶ。離すまいとするかのように収縮を繰り返す媚肉をぐるりと掻きまわせばマイケルのくぐもった悲鳴が聞こえた。
「ひっぐ、もっ、駄目…ッだ、出たのに…! また…っ」
寝台に額を擦り付けるように頭を振るマイケルの下から、ようやくクリストファーは抜け出した。うつ伏せに突っ伏したまま肩を上下させる恋人の躰をいとも容易くひっくり返し、朱に染まる端正な目元をクリストファーが覗き込む。
「前も後ろも、気持ち良かったか?」
「っ……バカ…」
真っ赤にした顔を隠すように上げられたマイケルの腕を、クリストファーはあっさりと捉えて掌へと口付けた。
「可愛いよミシェル。最高のプレゼントだ」
「ぉ、俺でいいならいつでもくれてやる…から…、ちゃんと帰ってこい…バカ」
END
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