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女王蟻
信乃のテレパシーに、雷一は首を傾げた。小力は急上昇して、今度は悪霊の頭上に青白い炎を吹きかけた。悪霊は首を九十度曲げると、口から出した赤黒い炎で弾き返した。
雷一がテレパシーを送る。
「本当だ。眉間が光った。」
「奴は何か行動を起こす時に、眉間の蟻が光るんだわ。眉間の蟻が女王蟻の役割的なリーダーなのかもしれないわ。」
信乃の問いかけに小力のテレパシーが答える。
「お母さん、そうなんです。悪霊の体全体の指揮を執っているのは、眉間の赤く光る蟻じゃないかと思うんです。そのリーダーの指示に全体の兵隊蟻が従う。だから赤鬼と青鬼の時も一糸乱れずに動き回れた。」
「小力、よく気づいたぞ。赤鬼と青鬼があまり綺麗にシンクロするんで、逆におかしいと思ったんだ。リーダー蟻が命令して、それに全部の蟻が忠実に従っていたんだ。」
「小力、よく気がついたわね。じゃあ、あのリーダー蟻を何としても倒さないといけないわ。今のままでは、奴らは集散を繰り返して、こちらの攻撃は同じ事の繰り返しになるだけよ。小力、貴方に雷一君を託すわ。」
信乃は雷一を地上に下ろすと、上空に飛び上がった。雷一は上空を見上げて、信乃に尋ねた。
「信乃さんはどうするの?」
信乃は上空から、合流した小力と雷一に向って言った。
「あの女王蟻を確実に倒さないと、こちらがいくらダメージを与えても奴らは新たな仲間を集めて再生する。私に考えがあるわ。これから準備するから、それまで貴方達がお互いに協力して、少しでも奴にダメージを与えて続けて。」
信乃は森の木々の中に消えた。
「小力。じゃあ、また二手に分かれて攻撃しようか。僕が奴の正面から攻撃するから、小力は奴の背中側から攻撃してくれ。」
小力は頷くと、悪霊の背中側に回った。悪霊は両腕をグルグルと回している。作り直した体の可動領域を確認しているのかもしれないと雷一は思った。小力の言った様に、悪霊の眉間が時々赤く光るのが見える。リーダー蟻が体中の細胞に何かの支持を出しているに違いない。
雷一は叫んだ。
「小力、戦闘開始だー。」
「ウヲォー。」
小力が咆哮で答えた。
雷一は両手を伸ばして胸の前で掌を重ねると、青白いビームを発射した。以前よりも高速のビームが発射された。悪霊の顔を目がけて光のように向かっていく。悪霊は両手を顔の前でクロスしてぎりぎり防いだが、雷一のビームの衝撃に、二、三歩後ずさりをした。
「雷一、威力が増したね。」
小力のテレパシーに、雷一も答える。
「うん。自分でも何でだか分からないけど、前よりもすぐに体中のエネルギーを掌に集中出来る様になったんだ。」
「雷一。君は戦いを通して、進化してるんだよ。自信を持って頑張れ。」
雷一は頷くと、テレパシーで答えた。
「小力。僕を相棒に選んでくれてありがとう。」
「雷一。僕の方こそ、お母さん探しを手伝ってくれてありがとう。」
「この戦いが終わったら、初日の出を一緒に見に行こうね。」
「うん、水平線から登る太陽はきっと綺麗だよ。」
小力のテレパシーに、雷一は頷いた。
「ウヲォー。」
小力は吼えると同時に、大きな青白い炎を口から悪霊の背中に目がけて放出した。悪霊は前方の雷一に気を取られて、小力の攻撃を背中にまともに受けて前によろけた。
「小力の炎も力強くなってるよ。小力も進化してるんだよ。」
小力は嬉しそうに頷いた。
「おのれ、ガキどもが。小賢しい。ウオォー。」
悪霊は上を向いて咆哮した。体全体が赤黒く輝きだした。眉間の女王蟻が赤黒く輝いている。
「雷一、気をつけて。何か仕掛けてくるぞ。」
「分かった、小力。」
雷一が頷いた瞬間、悪霊が雷一の視界から消えた。雷一は左右を見回した。悪霊はいきなり雷一の足元から眼の前に現れた。
「うわぁ。」
雷一が驚いて後ろに倒れ込んだ所に、悪霊が右足の踵を振り下ろした。雷一は目を見開いて、悪霊の右足を両手で受け止めた。
「ムムー」
雷一は体中のエネルギーを両手に集めた。雷一の背中に小力が回ってきて、背中から支える。雷一の目が真っ赤に充血している。
「雷一、大丈夫?」
心配顔で支える小力に雷一は頷くと、歯を食いしばりながら言った。
「大丈夫。僕も諦めない。」
雷一は悪霊の右足を押し返した。悪霊がよろけて後ずさった。
小力はその隙に、雷一のジージャンの襟を咥えて飛び上がり、雷一を空中に放り上げた。雷一は空中で一回転すると、小力の背中に跨った。
雷一と小力は、悪霊の正面に対峙した。
「小力。僕があいつの顔を攻撃するから、小力は胸を攻撃してくれ。同時に攻撃すれば、あいつは両方を防御する事はできないから。」
「分かった。じゃあ、雷一が掛け声をかけて。」
雷一は頷くと、
「ワン、ツー、スリー。」
雷一と小力は、スリーで同時に悪霊に攻撃を開始した。雷一の放つビームが悪霊の顔に向けて飛んでいき、悪霊は両腕をクロスして防いだ。がら空きになった悪霊の胸に小力の放つ炎がぶつかった。悪霊は衝撃で後ろによろめいた。悪霊は両膝を少し曲げて、中腰になった。雷一には、悪霊が胸に受ける衝撃に耐えているように見えた。
「小力、僕達の攻撃が効いているぞ。」
「雷一、お母さんが応援にくるまで頑張ろう。」
雷一は頷くと大きく深呼吸をした。雷一は悪霊が両腕を顔から胸に下ろせない様に、顔面へのビーム照射を上下左右に微妙にずらした。
「小力、その場所から動かないで。」
信乃の声が、雷一と小力の脳内に響いた。
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