出会い

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出会い

「ブルドックかな。」  どっかで会ったことがある顔だ。雷一(らいち)には思い出せない。体全体が引き込まれて行きそうな神秘的な(あお)い瞳が、悲しそうにこちらをじっと見つめている。雷一はおもわず子犬を抱き上げたくなった。しかし、いきなりガブリと()まれたら困る。 「ごめんよ。僕の家じゃ飼えないんだ。」 雷一はそう言うと、けもの道を急ぎ足で下った。後ろを振り返りたい衝動(しょうどう)を抑えながら。子犬がじっと見ているのが背中に感じられる。 見捨ててしまう後ろめたい気持ちが、雷一を早足にする。もうすぐ国道に出る。もう追ってこないだろうと思い、雷一は後ろを振り返った。子犬はいなくなっていた。耳を澄ませても、子犬の鳴き声は聞こえない。ほっとしたような、寂しいような気持ちで胸が苦しい。 「ごめんよ。」 雷一は(つぶや)くと、再び国道を目指した。突然、目の前にさっきの子犬が現れた。 「うわー。」 雷一はびっくりして尻餅(しりもち)をついた。いつの間に自分を追い越したのか、気づかなかった。それとも他にけもの道があったのだろうか。 雷一はその時、ある事に気づいた。子犬は地面に座っていない。正確に言うと、地面から微妙に宙に浮いているのだ。雷一は思わず子犬の顔を見た。 子犬の口がゆっくり開いた。 「やっと、会えたね。」 しゃべった。そしてニヤリと笑った。確かに笑った。人間のように口を横に広げて。その横に広がった口を見て、雷一は気づいた。 「狛犬(こまいぬ)だ。神社の入り口に座ってる。いつもうーんと口を横に広げてる方だ。そんな、ばかな。」 雷一は自分の体が、ゆっくりと後ろに倒れていくのを感じた。 「おさい銭をあげなかったから、ばちが当たったのかなあ。」 気が遠くなっていく。狛犬が碧い瞳で、じっとこちらを見つめている。
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