挟み撃ち

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挟み撃ち

 孝一は首を振って笑ったが、右目は(まぶた)()れて(ふさ)がり、唇は大きく()れ上がっていた。小力(こりき)が心配そうに孝一を見つめる。孝一は両手を()げようとしたが、左肩は揚がらなかった。孝一は仕方なく右手だけを揚げると、言った。 「お父さんがラスボスを倒して、お前とハイタッチしたいと頑張ったんだけど、ここまでが精いっぱいだよ。お母さんの所へ先に行くかって、観念したところだった。」 雷一(らいち)は孝一と右手でハイタッチすると、孝一の両肩を抱いて言った。 「お父さん。お母さんの所に行くのは五十年は早いよ。今あっちに行くと、お母さんが怒って、こっちに追い返されちゃうよ。」 「お前、お母さんに会ったのか?」 「うん。黙っててごめん。病室で時恵ばあちゃんの手を握ったら、時恵ばあちゃんがワープしたみたいに三途(さんず)の川に連れて行ってくれたんだ。お母さんや省吾じいちゃんに会えたよ。お母さんと色々とお話ができて、とても楽しかった。僕が生れた時の事もお母さんからちゃんと話が聞けたよ。それに(こずえ)ちゃんとも友達になったし。」 「梢ちゃん?」 「詳しくはこのラスボスを倒してから話してあげるよ。ところで、勇太は何処(どこ)にいるの。」 「おおーい。ここだあー。」  雷一と小力が声の聞こえる方角を見ると、本堂の軒下(のきした)から勇太が出てきた。勇太は右足を引きずりながら、ゆっくり歩いて来た。迷彩色の上下スエットは、所々が()げて裂けていた。 「お前ら、遅いよ。悪霊のグレードが上がって、超やばかったよ。体の(しん)にビームを()らわない様に避けてたつもりだけど、今も体の節々(ふしぶし)(しび)れてるよ。悪霊の攻撃力がパワーアップしてるから、お前らも気をつけろよ。」 「わかった。お父さんと勇太が無事で良かったよ。二人はどこかに避難して、体を休めててくれないか。後で応援を頼むから。」 「オッケー。必ず呼べよ。」 勇太はそう言うと、孝一に肩を貸して二人は本堂の方へ歩いて行った。雷一は二人の後ろ姿を見届けると、小力の背中に(またが)った。 「じゃあ、小力。ラスボスをぶっ倒して、この戦いを終わりにしようか。」 小力は頷いて大きな尻尾を振り、空中に飛び上がった。  悪霊の両手は再生されていた。今までよりも爪の先が伸びていた。悪霊は両手を開いたり閉じたりしながら、新たな感触を確認している様だった。 「不意打ちとは卑怯だな、小僧。この戦いは最後に俺が勝つ。お前達は(もだ)え苦しみながら死んでいく。このゲームはそういうシナリオだ。」 悪霊が笑いながら言うと、雷一が(さえぎ)る様に言った。 「そんなクソゲー、誰もやんないよ。」 「クソゲー?」 「糞みたいにつまらないゲームの事。この戦いは、『南海の王者』よりも面白いエンディングにしてやるよ。」 小力は悪霊をじっと(にら)んでいたが、(うな)る様に言った。 「その形がお前の最終形なのか。お前は何で赤鬼に変身してるんだ?」 赤鬼の空洞の口の部分が、口角が上がって笑い声になった。 「人間が古来より恐れている想像上の怪物は赤鬼だろう。その赤鬼にお前達はボコボコにされて、絶望の中で死んでいくんだ。愉快な結末だな。」 雷一が首を振りながら、低い声で言った。 「こっちこそ、ラスボスの赤鬼をぶっ倒して、最後に皆でハイタッチをするエンディングが目に浮かぶよ。」 小力が雷一に賛同する様に、夜空を見上げて()えた。 「ウヲォー、ウヲォー。」  神社の境内を突風が吹き抜けた。悪霊は両手を高く掲げると、右手に持った棒をグルグル回して威嚇(いかく)し始めた。 「じゃあ、こっちからいくぞ。小僧。」 悪霊は右手に持った棒を大きく上に振り上げて、雷一と小力を目がけて叩きつけた。 「ドォーン。」 雷一を乗せた小力は、とっさに後方に飛び上がった。石畳に大きな穴が開いた。振動に周りの木々が揺れた。 「小力、風を吹き出してくれ。その上を僕がビームを(すべ)らせるから。」 雷一がテレパシーで小力に伝えると、小力は頷き、大きな口をすぼめると、 「フゥー。」 と息を吹き出した。雷一は重ねた両手の(てのひら)から、青白いビームをその上に照射した。ビームは小力の吹き出した息の上を高速で悪霊の顔に向かっていく。悪霊はとっさに右手に持った棒を顔の前に出して、雷一の照射したビームを受けた。 「ゴゴーン。」 凄まじい音が境内に響いた。 「残念だな。」 悪霊はそう言うと上空に飛び上がり、大きく息を吸うと赤黒いビームを吐き出した。赤黒いビームが、今度は雷一と小力を襲った。小力も負けじと口から青白いビームを吹き出した。二つのビームは空中でぶつかり、力比べの様に拮抗(きっこう)した。雷一は小力の背中から飛び降りると、悪霊の背後に回り込んだ。そして悪霊の背中に向けて、合わせた両手の掌からビームを照射した。 「パーン。」 甲高い(はじ)ける様な音がして、悪霊の背中に穴が開いた。悪霊はバランスを崩して、右に傾いた。しかし、それは一瞬で、空いた穴はすぐに(ふさ)がった。赤と黒の(しま)模様の(あり)の様な生物の集合体が参集した。雷一は小力にテレパシーを送った。 「小力。こいつら、小さな蟻の様な生き物が集まった集合体みたいだな。」 小力は頷くと、雷一にテレパシーで返事をした。 「お互いに集まったり、離れたり。その時々で自由自在に形を変えて活動できるみたいだ。」 「このまま、個別に攻撃してみようか。」 小力が頷くと、同時に前後から攻撃を開始した。雷一は後方から悪霊の背中へ、小力は前方から悪霊の頭部へビームを照射した。悪霊はしばらくの間、仁王立ちで動かないでじっと耐えていた。 「ウォォー。」 「ワオォーン。」 雷一と小力は同時に()えながら、悪霊に照射したビームのエネルギーを上げ続けた。悪霊の体が小刻みに震え出した。 「ウオォー。」 「ワオォーン。」 雷一と小力は声を合わせて、悪霊の背中と頭部へビームの照射を続けた。青白い光が白く変わっていった。それは三十秒ぐらい続いただろうか。 「パァーン」 甲高い音と共に悪霊の頭は吹っ飛び、胴体は粉々に飛び散った。
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