冷堂霧慧は探偵である

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 暫く経って、一服し終えた霧慧さんが戻ってくる。数本吸ったのか、帰ってくるのが些か遅かった。  その割には、椅子に腰掛けた第一声が溜め息で、一服しに行った後より機嫌が悪そうだった。 「…な、何かありました?」 「え、ああ。ゴメン、職質食らってたら遅くなったわ」  ええっ、と驚きの声が飛び出る。そんな煙草吸いに出た、ピンポイントすぎる警官のタイミングのよさは、確かに驚愕に値する。 「そうなのよ。あのポリ公、絶対網張ってたわ。粗捜しの税金泥棒め」  なんとも、ひどい言いようだ。先程とは売ってかわって、心底うんざりした様子で腰掛ける様から、その鬱陶しさを窺い知れる。 「あの若いの、点数マズかったんでしょうね。免許見せても中々引き下がらなくて、本当に面倒臭くて」  どっと溜め息を吐く霧慧さんだが、私からすれば正直その格好なのも問題がある気がする。  制服姿の女性が煙草吹かしていたら、それは未成年が、と勘繰るのが普通だ。私が同じ立場でも声をかけるだろう。 「じゃあ、なんでその格好しているたんです?」  疑問に首を傾げていると、いつの間にか私のポテトを盗み食いしていた花ちゃんが顔を出す。 『あれ、知らないの? 霧慧ちゃんはあそこに調べものがあってね。制服だと、不思議と警戒されにくいんだって』 「え? そんな理由で格好を?」  疑問を受けて、霧慧さんはまた面倒そうな素振りを見せつつも、服の袖をひらひらとさせながら答える。 「それもあるけど、一番はやっぱり、学校に出入りするのにいちいち許可とらなくていいってのがあるわね。アレ面倒だから、こうして紛れ込んでるのよ。わたし、これでもお肌の綺麗さには自信あんの」 「そこまでして、何を聞いて?」 「決まってんでしょ。仕事よ仕事」  仕事、ということは。探偵業の一環とみていいらしい。フィクション染みたその職業について、ちょっと興味が湧いてきた。 「仕事、ですか。具体的には?」 「そんなのフツーのよ。迷子のペット探しに浮気調査。他所のお宅のプライベートに踏み込む、無粋なお仕事よ」  軽い調子で語る霧慧さんだが、その業務内容について違和感を感じ得ない。  私はいつの間にかポテトを平らげていた花ちゃんを見ながら、その疑問を口にする。 「それだけ、じゃないですよね。具体的には、そのお隣の方とか」 「…そうね。ウチの事務所は特殊よ。それらに加えて、今日のあなたのように、霊に対して少しだけ近い人を助けたりする。まぁ、何でも屋みたいなものよ」 「霊に近い…? 所謂霊感、というヤツですか?」 「ま、大体そんな認識でいいでしょう。そこの花ちゃんよろしく、みんな構ってちゃんだから、今日みたいにちょっかいかけられてる人は多いのよ」  なるほど、となんとなくわかったような相槌を打つ。霧慧さんの語りは軽い調子を崩さないが、何処と無く実感の籠ったものだ。耳を傾けるに値する内容だと思う。
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