飛び地

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 ニューヨークの住所はわかりやすい。表記は基本的に「番地+通りの名前」である。例えば「123グリーンストリート」だったら、グリーンストリート沿いにある123番の家を探せばいい。通りの名前は交差点に立っている表示板に書いてあるし、番地の数字は建物の入り口に大きく書いてある。  という知識を、ニナはネットで得た。  アサコさんから届いたメールの文面は簡単だった。 ——◯月×日午後三時、下記の住所にいます。久しぶりに会いましょう。  その下にあったアルファベットと数字をコピーして、地図サイトの検索窓にペーストすると、ニューヨークのブルックリン区が表示された。  とても驚いたけれど、アサコさんが言うのだから間違いない。  アサコさんとは、十年前まで同じ会社で働いていた。組織の整っていない小さな会社で、部署は違ったけど席は近くで、ふたりとも何かと業務の範囲外のことをさせられ、よく愚痴を言い合っていた。いろんな仕事を押し付けられるのは、ニナは意志が弱いからで、アサコさんは優秀だからだった。アサコさんの方が年齢も入社年次も上で、妹気質のニナはベタベタと頼りきっていた。  ニューヨークにいるんだ。住んでるのかな。かっこいいな。  いろいろ聞きたかったけど、打ち込んだ長い文は結局ぜんぶ消した。会ったときにたくさん話したい。「行きます!」とだけ書いて返信した。
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