飛び地

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 ニューヨークには、学生時代に観光旅行で行った。道は碁盤目状で、地下鉄が南北に何本も通っていて、東西は端から端まで歩いて行けなくもない。観光客に優しい構造の街。ただしそれはマンハッタン島の話だ。同じニューヨーク市でも、橋を渡ったブルックリン区はずっと広くて、道も碁盤目ではない。そこへは行ったことがない。  本屋で買ったガイドブックには、メールにあった住所の周辺の地図は載っていなかった。もう一度ネットで地図サイトを開き、航空写真モードにしてみると、ただの住宅街のようだ。ストリートビューも見てみた。街路樹が涼しげな明るい道に、高くても四階までの建物が整然と並んでいる。どこにも落書きはないし、ゴミも落ちていない。治安は良さそうだ。  地図モードに戻し、なるべく細かいところが表示されるように拡大して、周辺を何枚かに分けてプリントアウトした。道をぴったり合わせてセロハンテープでつなげ、地下鉄の駅からのルートをピンクの蛍光ペンでマーキングした。ふだんは紙の地図なんて滅多に見ないけど、やっぱり海外ではアナログが安心だ。  格安航空券を手配したり宿を予約したりスーツケースを新調したりしているうちに、あっという間に出発の日が来て、十三時間のフライトと二十四時間の滞在を経て、今ここにいる。
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