二天一流 十代目宮本武蔵(仮)

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二天一流 十代目宮本武蔵(仮)

深い意識の底から噴水のように湧き出てくる数多の情景。膨大な情報が頭の中に溢れてくる。そのほとんどが剣技の情報なのは予想通りなのだが、想像よりも情報量が多く、自分の頭で処理できるのか不安になってくる。 どのくらい時間が経ったか分からないが、今まで暗い背景だった意識の中が徐々に明るくなってきた。そろそろ目覚めが近いのかと思い始めたところで、島のような場所で戦っている二人の男の姿が鮮明に映し出された。その戦いは激しくも流麗。命の奪い合いをしているというのに楽しそうで、見ているこちらもワクワクするような剣撃の応酬だった。よく見ると何か言葉を交わしているようだが、何を言っているのかは僕には届かない。もっと近づけば聞こえるかと近くに寄ろうとした所で、どこかに引っ張られるようにして思考を強制終了させられた。 ――僕はどの位眠っていた?―― 「二日間も目を覚まさないとは思っておりませんでした。長純(ながすみ)様。」 そんな僕の心の声に答えるかのように話しかけてきた幼い頃から一緒だった光臣(みつおみ)が、心配そう・・・ではなく、無表情で隣に立っていた。 「二日・・・か。本来なら半日くらいの予定だったか?」 僕が今回受けた記憶継承の儀は、我が家の先代達が研鑽してきた技の記憶を次世代へと受け継がせる儀式なのだが、事前に父様(とおさま)から聞かされていた時間よりも長くかかってしまったようだ。 「従来の儀式での平均時間は半日程度と私は伺っております。なんにせよ、長純様がご無事に帰ってこられたのであれば私は満足でございます。」 「・・・光臣。何その話し方?」 「本日より、長純様は宮本武蔵の称号を受け継ぐ候補になりました。それに伴い、私は長純様付きの従者兼護衛になりましたので相応の態度に変えさせていただきました。」 「別に今までの接し方でもいいのに。」 「なりません。」 昔から光臣はこうと決めたことは頑固だった。今回も譲る気は無さそうだ。対外的にも、主人と従者が砕けた話し方をしていると印象が良くないのは理解しているので、無駄な押し問答になると判断し早々とこの話題は切り上げる。 「了解了解。それで?これからの予定はどうなってる?」 「目が覚めたその日は、儀式の疲れもあるでしょうから安静に過ごすようにと。詳しい話は明日、ご党首様がお聞きになるそうです。」 「わかった。ちょっとまだ頭がふわっとしてるから顔でも洗ってくるよ。」 儀式の影響で急激に情報を流し込まれた頭はまだなんとも言えない違和感が支配している。あえてどんな感じかを挙げるのであれば、酸欠の症状に似ているだろうか?しかし、息が切れているわけでも体に疲労感があるわけでもなく、ただただ頭のみに違和感があるので何とも言えないのだ。 「承知いたしました。では私は、ご党首様に長純様がお目覚めになったことをご報告してから、長純様のお部屋に戻ります。」 「頼む。」
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