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目の前の車に乗り込むと、後部座席にはアニキが乗っていた。
「ご苦労だったな、ヒロ」
「アニキ……」
アニキは俺の顔を見るなり労をねぎらってくれた。
俺に煙草を渡し火をつけてくれた。
「早速だが今日、総長に面会して明後日には襲名披露をするぞ」
「明後日か……いよいよ、氷堂総長の誕生か」
そして俺は若頭となり、アニキの右腕として一層、励む予定だ。
ところがアニキは意外な事を口にした。
「いいや。総長になるのはヒロ。お前だ」
「………はっ?」
「別に閃きとか思いつきで言ってる訳ではないぞ。前々から考えがあっての事だ」
アニキは俺に総長を譲る理由を話してくれた。
「俺はな、総長には向いてない。No.2の方が性に合ってる。お前みたいに腕が立つ訳でもないし、ヤクザっぽくもない。ただ頭が良くて儲けるのが上手なインテリ野郎だ」
「そんな事言うなよ。アニキがいなきゃ、俺は今頃、この世にいなかったかもしれないんだぞ」
「だが、右腕の素質しかない奴がボスになって組織を纏められようか?新見に学ばせてもらったよ」
「新見?奴がどうしたんだ?」
「新見はマダムが窮地に立たされた時、しっかりとシマを守り、取り仕切っていた。奴の器量ならマダムを越え、裏切る事だってできたはずだ。なのに奴は常にマダムの顔を立て続け、マダムの名のもとに組織を取り纏めた。全く、対した男だよ」
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