あれから

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あれから

あの逃げ帰った日から10年がたった。非力だったのもあったが、サモナーと言う職業はあまり力に頼る職業ではない。 雫は、顔はそんなに悪くない。高校生の時から短めの黒髪で、パッチリした目をしており、一般的には男前と言われる部類だが、かなり目立つような男前でもない。10年が経った今は、少しだけシワが出来て、28歳らしい顔になっていた。 レベルは5に上がっているが3階層より、下に進む事が出来なかった。たまにパーティーを組んだりして、オークを何回かは、倒していたが、一人で倒す事が出来ない為にこの層より下層に進む気になれず、かと言って冒険者を辞める事も出来ず、なんとか月10万円程度の収入を得て貧乏生活をしていた。 もちろん10万円程度では、防具や武器も新しくする事が出来ず、初心者用装備を使用していた。レザーコートと胸当ては、傷だらけ短剣も刃の部分は手入れされているが、かなり薄くなってしまっており、柄もボロボロであった。 収入を得る為に今日も2階層に来てゴブ造と共にゴブリン狩りに勤しんでいた。 特に変化のあった生活は送っていなかった。唯一変わったと言えば、高校生から専属冒険者になった事ぐらいだろうか。 就職する事を雫も考えたが、やはり男なら夢と希望と思い、ダンジョンに潜り続けたが底辺の底辺のまま時間だけが過ぎてしまった。召喚用のモンスターも1体しか使役出来ない為に、戦力の強化は行えないまま来ていた。 (よし、今日の必要分は揃ったな。逃げ帰るだけだけど3階層へ行くか) 「行くぞゴブ造」 雫達は、階段を降りて、ゲートの横を通って探索エリアに降りてきて、探索を始めた。たまに持ちきれていない、捨てられたドロップ品が落ちている事があるから周りに注意を払いつつ地面に目をやりながら探索を続ける。 (今日も落ちてないなあ) 一通り探索を続けると、周りに現れるオークの姿がない事に気が付いた。 (今日はオークが一匹もいない。どうしたんだ。) そんな事を考えていたらかなり遠い位置から【ブモォー】という聞いた事もないような声が聞こえたと思ったら、あっという間に目の前に、黒茶色のオークの1.5倍位あるサイズの目の赤い大きな牙が生えた見た事もないオークが現れたのだった。 (伊藤さんから聞いた事があるぞ、突然変異で色の違うサイズの大きいモンスターが生まれる事があるって、しかも仲間も食べてしまうから周りには、オークが居なかったのか) 雫は、背中に冷や汗が流れるのを感じた。普通のオークでさえ倒せずにこの3階層にいるのに、突然変異のオークなんてものが目の前に現れたのだから。 ーーそんな一瞬の思考が、命取りだった。 オークの握っていた棍棒が、雫に降り下ろされていたのだった。 ーーバキッ 骨の砕けた音が周りに鳴り響く、しかし体は痛くない。見るとゴブ造が横から飛び込んできて、棍棒に殴られていた。 【ゴフゥ……】 「ゴブ造ぉー」 ゴブ造は、容赦なく地面に叩き付けられて、光の粒子へと変わってしまった。 「ゴブ造ぉー」 10年も一緒に戦ってきたゴブ造が消えてしまった地面を見たが、もう居ない。 雫の頬には、涙が流れているのは、分かったが、オークの次の攻撃が来る前に雫は、走り出した。 かなりの速度で逃げているつもりだったが、後ろのすぐ近くには、オークが迫っていた。なんとか逃げようと必死に走り回ったが、とうとう出口には間に合わず壁際まで追い詰められてしまった。
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