120人が本棚に入れています
本棚に追加
目を開けているのか閉じているのかも分からない。暗闇をピンスポットが照らした。丸い明かりに照らされた赤い床の上でピエロが胡坐をかいている。白いお面には赤い鼻がつけられ、吊り上がった口角は笑顔を通り越してもはや恐ろしい。目元からは黒い涙が流れていた。
体が小刻みに震えているのは果たして笑っているのか泣いているのか、どうにもお面の上からでは分からなかった。
今度こそ、とこのクソ道化師の首を今すぐへし折ってやりたい衝動にかられたが、踏み出せば沼地のように足を引き込む床のせいで近づくこともできなかった。
「まったく。また15年を棒に振りましたか。あなたも学ばない人ですねぇ」
女とも男とも知れない声を奇妙に震わせて、そうケタケタと笑った。
舌打ちをしてピエロを睨みつけたが、真っ暗な目には光なんてなく、そもそも見つめる先に瞳があるのかもわからかった。背筋にゾッと鳥肌が立つ。
「なに、簡単なことですよ」
おどけた仕草でピエロが言う。大袈裟なそのわざとらしい態度に沸々と怒りが湧いてくる。
「ハッピーエンドを探せばよいのです」
――何がハッピーエンドだ。この人生に終わりも幸せもないじゃないか。
そもそもハッピーエンドとは何か。幸せを証明できるものなんてこの世界に存在しない。
n回目ともなるピエロとの会話で助言らしい助言をかけられたのは前回が初めてだった。そこに特別な意味があると思うでもなく、俺はまた15年をふいにしたらしい。
「ささ、ニューゲームですよ。いってらっしゃい」
ピエロがタン、タンと人差し指で床を叩く。途端足をつけていた床がなくなり、何度目とも知れない浮遊感が胃を浮かせた。
そうだ、次はバンジージャンプでもしてみよう。悲鳴一つ上げない自信がある。
最初のコメントを投稿しよう!