下町の四人

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下町の四人

 かの有名な杉田玄白が「解体新書」を完成し、 この日の本にも西洋医学が浸透してから五十年余り すっかり江戸の町は蘭学に溢れ、東洋医学そっちのけで目新しいものに敏感な江戸の町民は、日々蘭学に勤しんでいた。    医学とは無縁な筈の庄屋の倅、庄之助も例外ではなく、家督を継ぐ気があるのかないのか分からない程、南蛮の知識にのめり込む日々を送っていた。    そんな庄之助だが、今年で元服を迎え、いよいよ家督について真面目に考えないといけなくなり、相談相手として三年前から親交のある剣術道場の養子である鉄之進の元へ訪れ胸の内を明かした。 「俺が今こうして悩んでいることさえも、おとうとおかぁのおかげだと思うておる。しかし、この国は、これからとてつもなく大きな変化があると思うてたまらん。おまえはどう思う」  庄之助は、どんな言葉が返ってこようとも顔色ひとつ変えないで受け入れようとの想いで訊いてみる。 鉄之進から返ってきた文言はこうだった。 「私は未だ来ぬ事象よりも、過ぎ去りた誤ちを拭う為に、養父の元で剣を振るっている所存であります。近親者含め、大事があったその時は、思う存分剣術を披露致し、お救い申し上げます」  三年も交流があるのに、未だに友としてではなく 庄之助の父親が治める土地を借りている義父の立場を弁えての物言いに、僅かながら寂しさを忍ばせた。  そこで庄之助は、妙案を思いついた。
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