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長年道場に足を運んでいた庄之助は、鉄之進のことを慕っている若い娘がいることを悟っている。
また、己が夢中になってはいるが、全く見向きもされない菓子屋の娘がいる。庄之助の妙案とは、自分と鉄之進を含めた四人で海へ行き、親睦を深めようとするものだった。
「鉄よ、もし家督を継いだとしたら今までのように気ままに此処へ足を運んぶことができぬかもしれねぇ。そこでだ、お菊ちゃんを誘って海にでも行かねぇか」
「庄之助様が仰りたいことはわかりますが、なぜお菊の名がでるのです?」
鉄之進は訝しげな表情で尋ねてきた。
「そりゃあおめえ、男二人で海に行っても楽しくありめえ。華がないとな。お菊ちゃん程の器量がある華なら、文字通り場も華やかになるってもんさ。それに……」
最後は小声で呟いた。
「お春と仲が良いっていうじゃねぇか、だから、その……」
ごにょごにょと言い淀んでいると、鉄之進は察してくれたのか、深い溜息をついたものの
「お春さんを誘い出す為に、お菊を出しに使うのですか。まぁ、やり口は感心しませんが、庄之助様の恋路を応援したい気持ちがあるのも事実。お菊にもこのことを伝えて取り計らってもらうよう話してみましょう」と微笑みながら言ってくれた。
お春のこともあるのだが、お菊ちゃんの恋路も巧く行くよう企んでいるのは内緒にして、
「おお、持つべきものは友よ。鉄なら分かってもらえると思っていたぞ」と大袈裟に演技をして庄之助は鉄之進に抱きついた。
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