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「おやめください」
無理矢理離そうとする鉄之進に悪魔の囁きを投げかけた。
「何故に海だと思う?」
この問いに鉄之進が瞬間的に紅潮したのを庄之助は見逃さなかった。
「お主の想像通りよ。海といえば砂浜で押し寄せる白い波との戯れ。濡れぬように足元の小袖を巻く仕上げて顕になる、か細い二本の脚。水飛沫がかかれば、さぞ胸の周りは艶やかに映えようぞ」
何かに取り憑かれたかのように、鉄之進の想像、もとい妄想を掻き立てるように囁いた。
頭を掴んでいた鉄之進の掌から、ふっと力が抜けるのが分かる。
「さすが鉄、もう向こうの世界へ行ってしもうたか」
礼儀に厳しく剣術一筋、愚直な好青年の裏の顔を庄之助だけは知っていたのだ。
「やれやれ」
庄之助は、幸せそうに虚空を見つめる彼の肩を愛情を込めて優しく叩いた。
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